【No.152】オンリー・ゴッド

イリー・K

2014年05月31日 03:01


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’13/デンマーク、フランス/90分/カラー
監督・製作・脚本:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:ライアン・ゴズリング クリスティン・スコット・トーマス ビタヤ・パンスリンガム ラター・ポーガーム ゴードン・ブラウン トム・バーク ヤヤ・イン


 初めて彼を見たのは6年前に観た『ラースとその彼女』という映画だった。色白で七三分けに口ひげを蓄えたセーターがトレードマークの青年ラースがレディドール(ダッチワイフとも見てとれる)を彼女として生活するという話である。映画もそうだが、なんと女々しい奴なんだろうと思った。それが今にして思えばあれが、ワイルドなイメージがすっかり定着したライアン・ゴズリングだったというのだから人間というのはわからない。

 かつてよりは若干は落ち着いた感はあるものの、まだイケイケ状態ではある彼がチヤホヤされるようになったのは『ドライヴ』であろう。セーターから背中に虎の刺繍をあしらった革ジャンに着替えシングルマザーを思い続ける孤独なアウトローっぷりは好評を博し、続いての『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ 宿命』でもアウトロー役は変わらず盤石の域に達していた。そして今回、『ドライヴ』の主演と監督が再び手を組んで放ったのが今日ご紹介する『オンリー・ゴッド』である。「唯一の神」だなんてスタイリッシュかつクールな世界観を前作で見せつけた二人が何やら思わせぶりなタイトルで何をしようというのか。孤独に生きる己に宿る崇高な精神こそが「神」だということであのようなキャラについて回るナルシシズムに一層拍車をかけたような濃さを増して大暴れするのだろうか。そんな想像をかき立てて劇場に駆けつけた方はたぶん多いことと思う。しかしそんな期待を胸に本作を見たら肩すかしを食らってしまうことになる。

 いや、ライアン・ゴスリングは孤独ではないものの、ワイルドに変わりはなく、いざケンカとなると容赦しない血の気が多い性分といういつもの彼がそこにいる。おまけにならず者一家の次男坊で兄と一緒にタイへ逃亡して裏では怪しい商売をしながら表向きではボクシングジムを経営している。しかしところは変わってもならず者はならず者ということで、兄がまだ幼い売春婦をレイプした上に惨殺し、売春婦の父親の返り討ちにあって殺されてしまう。が、兄の死は地元警察の指示によるものであることを知り、本国から弔いにやってきた母から復讐を命じられる。

 とまぁマザコンであるのが玉にきずではあるが、基本的なキャラは崩さずに血を分ける兄を殺された男の復讐潭が描かれていく訳だが『ドライヴ』のようなスタイリッシュさとは打って変わり、装いがどことなくオカルトホラー寄りで何ともアクが強い。それを支配しているのがこの男、復讐の矛先となる警部役を演じた(たぶん)地元の俳優である。タイトルはどうやらこの男を指しているらしく真の主役といってもいい。ひと際異彩を放ち、終始ポーカーフェイスを貫き通しそのまなざしは冷徹そのもの。しょっぴいた罪人にはその場で有無を言わさず独断で鉄槌を下す。その手段に使われる道具が拳銃などではなく何と刀。日本刀とは違ってタイのものだろうか湾曲がほとんど無いナタのような形をしている。兄を殺した売春婦の父親もそもそも成人にも満たない子供を売るとは何事かと刀を振り落とされる。恐ろしいほどの倫理観の持ち主である。しかしほんのり薄い髪のオールバックといい浅黒くてべったりとした肌つやといい風体は誰かに似ているなぁと、じーっと見つめているうちに思い出した。周富徳だ。この数年全然見かけないから思い出すのに時間がかかったのは当然だ。そしたら刀が中華包丁に見えてきて、いつぞやの脱税騒動で追っかけてきたレポーターに足蹴り食らわせた見たことが無い周さんと重なって見えた。

 周富徳が血の制裁を加えた後、そのあと何をするかと思ったら部下たちを従えて夜の街でカラオケを歌っている。慰労会だろうか。でも部下たちは周さんにねぎらいの言葉をかけるわけでもおべっかを遣うわけもなく皆が皆ただ周さんの美声に耳を傾けている。さっきの仕事からのこの流れは観る方は拍子抜けだ。しかも私の気のせいかわからないが、歌っている曲のメロディラインがどうも日本の「りんご追分」に聞こえてしょうがなかった。別の日では80年代のアイドルソングっぽい軽快なやつだったし、選曲がどこか昭和歌謡チックなのである。監督は日本の文化に傾倒しているのだろうか。もう何が何だか復讐の件はどうでもよくなって終盤のあたりでは頭の中が周富徳一色になったのだった。映画を見終わって数時間後、神のいたずらか偶然にもご本人の訃報を知ることになるのである。


評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。

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