【No.150】オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ

イリー・K

2014年03月10日 09:23


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’13/アメリカ/カラー /122分
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:トム・ヒドルストン ティルダ・スウィントン ミア・ワシコウスカ ジョン・ハート
 
 吸血鬼といえばモンスター映画の古典であり、花形である。フランケンシュタインや狼男と違って最も息が長く今でも作られ続けている。クリストファー・リーなんていう懐かしい名をご記憶にあるお父さん方(というかおじいちゃん?)はいらっしゃるだろう。しかしこれだけ長く続くと、血を吸ってるばかりじゃいかないもので変わり種の吸血鬼が出てくる。

 人間に恋い焦がれてみるわ人間とのハーフができるわ自らヒーローとなって悪玉吸血鬼と戦うわで「ニュータイプ続々!」ってな様子であるが、しかし普通に考えてみれば、十人十色ではないが吸血鬼にもそれほどアクティブではないタイプだっているのである。人目を忍んで生きているなんて意外に盲点ではなかっただろうか。さすがは世界的監督と誉れ高いジャームッシュは目の付け所が違う。彼の最新作となる『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』にはそういうタイプの吸血鬼しか登場しない。 

 それにしても吸血鬼映画をかけるには最もそぐわないモーニングショーしか組んでいない桜坂劇場はどういうつもりなのか。延々夜のシーンしか出てこない映画を朝に観るというのは変な感覚にとらわれるな。映画が終わって外へ出ると正午を迎えたばかりの太陽が燦々と照りつけ、目がチカチカしてしょうがなかった。吸血鬼みたく灰になるかと思ったくらい。それはさておき、この映画の主人公は付き合ってはいるが、どういうわけかお互いアメリカ・デトロイトとモロッコで別居中のアダムとイヴという吸血鬼カップルである。本作の予備知識がゼロの状態でこの二人を見たら、まず吸血鬼であることは血を口にするまでわからないであろう。それほどに普通の人間と何ら変わらず慎ましやかな生活を送っている。まさに小市民吸血鬼だ。ことを荒立てたくはないからもちろん殺生などはせず、命の源である血はそれぞれ調達できる特別なルートを持っている。法外でも医療関係に太いパイプを持っていないと21世紀の吸血鬼は生きていけないらしい。従って映画から感じ取れるのは「吸血鬼はつらいよ」という嘆きである。活動できる時間帯も摂取できる食べ物も限られているのに永遠不変の命を背負っている吸血鬼。何百年も生きてるとそりゃ退屈で仕方ないだろう。二人はそれぞれ文学と音楽(特に楽器類)に造詣が深いのだが歴史的な文豪やヴィンテージのギターなどを学問や知識ではなく記憶で語っているのが興味深い。貪るにしても年齢が年齢だけに伊達ではない。ほかにも映画の随所には何気に吸血鬼ギャグが散りばめられていて、イヴが1868年と印字された婚礼写真を眺めながら「いまより少し若いかしら」とつぶやいたり、アダムがある人から顔が青白いことを指摘され「少しは日光浴びた方がいいぞ」と言われりする。

 従来の吸血鬼映画と比べると途方も無く地味なように思われるが妙な心地よさが漂う映画である。空気で酔わせる映画といったらいいだろうか。とにかくクールでかっこいい。夜の世界しか登場しないのがひとつのポイントだと思われるがそこでしか生きられないこの二人がよく映えるのだ。あ、映画がクールと言ったが別の意味でもこの二人はクールである。冷静沈着。物事に対して急激な感情を示すことがほとんどない。劇中での中盤以降、二人の穏やかな生活を覆す重大な事態に直面するが、慌てふためく様子も無く「あら、どうしましょう」とつぶやくようなレベル。どんなに抗おうが現実であることに変わりはない。とりあえず音楽でも聴きながら踊りましょうかとどこか楽観的な二人。何サイクルか知れない人に生き死にや歴史をその目で見てきた超長寿にしかこの心境には到達できないものなのか。その1サイクルしか生きられない私だが、こういう風に生きていたいものだ。

評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。

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