【No.130】ヒッチコック
↑イラストをクリックすると本作のサイトへジャンプします。
’12/アメリカ/カラー /99分
監督:サーシャ・ガヴァシ
出演:アンソニー・ホプキンス ヘレン・ミレン スカーレット・ヨハンソン ジェシカ・ビール
その道に超絶的に秀でた人は、その分野の「神様」と呼ばれることがある。経営の神様は松下幸之助、打撃の神様は川上哲治、プロレスの神様はカール・ゴッチ、その他に崇められる「神様」は数多といる。逆に客を神様と崇めたのは三波春夫だが、映画界においてサスペンスの神様と呼ばれたのはアルフレッド・ヒッチコック。彼を主役にしたタイトルもそのものズバリ『ヒッチコック』という映画は実在の人物名がタイトルになっていることから、人生もしくは半生が綴られた伝記ものの類いかと思いきや、かの代表作『サイコ』制作時を背景にしたアルマ夫人とともに作品を作り上げるまでの話が主になっている。私は知らなかったが、アルマは脚本家兼映画編集者で、この『サイコ』が映画史に残る傑作に成り得たのは、アルマの力に負うところも大きいということである。
今日の紹介はネタバレ気味に書こうと思うのだが、ネタバレといえば『サイコ』は初めて「ネタバレ厳禁」を意識して作られた当時としては革新的な映画であったらしい。その他にも精神に異常を来した人間がことを起こす「サイコスリラー」のパイオニアになったのはもちろんのこと、史上初めてあるモノを写したりと数々の語り草で彩られている。しかし、こうした革新だらけの映画はそれこそ生み出されるまでは数々の障壁があったわけで、映画会社が出資に難色を示したり、結局自己資金でなんとかこさえたとしても、今度は映倫が立ちふさがる。表向きでは戦い続けても、家庭内では疲れの色を見せるヒッチコックに時々助言を与えるアルマ。まさに内助の功。
私が妻帯者ではないのでわからないんだが、仕事と生活をともにする夫婦ってよく両立できるもんだなぁと思う。よっぽどの仕事好きでない限り、家庭に仕事のことを持ち込むのを良しとしない人は多いはず。それが家に帰っても仕事仲間がいるんだからたまったものではない。仕事と生活が共に良好であれば御の字だがどちらかが揉めた場合、もう一方への影響は無いんだろうか。その辺を考慮してのことなのか、芸能人でもよく共演していたのが、結婚を期にパッタリと共演しなくなることが多い気がする。共演していたのは高島忠夫・寿美花代夫妻ぐらいじゃないか(お昼の帯番組「ごちそうさま」)。あ、でもあんだけ波瀾の私生活を送っていた勝新太郎は晩年に玉緒と舞台共演していたっけ。この映画では私のような未婚者が持つ「夫婦の疑問」が提示されている。
何かとブロンド美女をひいきにする夫の姿に妻は辟易し、仕事仲間の脚本家とやけに親密な妻に浮気の疑いを抱く夫。日に日に強くなる疑いの念を夫は、映画の暴力描写に向けて発散してしまう。お互いのクリエイティビティが反響しあうような仕事上の理想的関係だけにとどまらず、図らずも夫婦生活ならありそうな「酸いも甘い」も映画作りに反映されちゃっているのである。これがフィクションであるかどうかはどうでもいいとしてその点については興味深く拝見させてもらった。案外現実でも「酸いも甘い」も仕事に反映されることってあるんじゃないだろうか、少なくとも芸能界においては。どつき漫才の祖「正司敏江・玲児」のあの強烈な玲児のドメスティックなツッコミの応酬にはそれが表れてるように見える。
ネタバレで言えば製作過程が描かれる『ヒッチコック』には、ネタバレにつながるあるモノが写っている。どっちも未見で、合わせて楽しみたいという方にはまずは『サイコ』から観るのをおすすめしたい。間違って98年のリメイク版(ガス・ヴァン・サント監督/カラー撮影以外は完コピ作品)を選ばないように。
評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
関連記事