【No.114】J・エドガー
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’11/アメリカ/カラー /137分
監督:クリント・イーストウッド
出演:レオナルド・ディカプリオ、ナオミ・ワッツ、アーミー・ハマー、ジョシュ・ルーカス、ジュディ・デンチ
クリント・イーストウッド(以下クリ爺)は今や映画界の至宝といわれても差し支えない位置に立っている。それは俳優、そして監督業で説明不要な業績を積み重ねて得られた立ち位置である。『荒野の用心棒』で鮮烈な印象を与え、『ダーティー・ハリー』でスターの座を決定的なものにし、監督業にも乗り出す。そして『許されざる者』や『ミスティック・リバー』などの受賞歴でアカデミー賞の常連の顔となった。とまぁ、すっかり説明してしまったが、もう半世紀を迎えようかという長いキャリアの中で、クリ爺は主演作、監督作を通じて“男”というものを体現してきた映画人である。先に挙げた作品群はマカロニウエスタンやアクション、ヒューマンドラマと扱うジャンルやテーマが違っても作品の底には一貫して“男”が流れていた。近作『グラン・トリノ』では齢80を過ぎてもなお放ち続ける“男”っぷりに全身シビレっぱなしであった。
それ以降、公に表明した通り俳優業から手を引き、もっぱら監督業に専念。1年に1本のペースで作品を発表し続けているクリ爺の劇場公開最新作がこの『J・エドガー』である。タイトルにあるこの人名、日本では「フーヴァー長官」と言った方が馴染みがあるかもしれない。フルネームでジョン・エドガー・フーヴァー。アメリカ合衆国の政府機関FBIの礎を築き、48年に渡り初代長官として居続けた人物である。指紋の採取やDNA鑑定など科学的な手法を捜査に取り入れ、アメリカに巣食う犯罪の撲滅に尽力した大きな功績を残しているが、人間誰しも表と裏の面を持っているというもの。自ら築き上げた組織の威光を傘にして、己に不都合なものには、それが大統領であろうと圧力をかけることもする。そんな表と裏を併せ持つフーヴァーの素顔に迫ろうといった趣向の映画である。
悪どい部分はあれど、骨太な職務精神を持ったフーヴァーが題材となり、それを演じるのが最近ワイルドなタフガイ役がやたら多いレオナルド・ディカプリオ。そして監督としてクリ爺が手がけるのだから、これまた“男”な映画になる要素は充分である。しかし映画を観てみたらどうだろう。“男”ではなく“男と男”な映画になっていた。誰かと誰かが対峙してどうのこうのとかではなく、嗜好的な意味でである。しかし本作はそこだけにスポットを当てたものではなく、飽くまでフーヴァーの一面である。事実的確証は得られておらず、アメリカでは限りなく事実に近い噂として語られているらしい。これにはいささか驚いた私であったが、フーヴァーにそんな事実があったかどうかなんてことは正直どうでもよかった。それよりもあのクリ爺が今までの映画人生で触れたことが無かったと思われる“男と男”な嗜好を持つ人たちに対する見方を知ることが出来るといった意味では大変興味深い映画である。
その一端を窺い知れる例として、のちにフーヴァーの右腕として公私を共にする“間柄”となるクライドと初めて面接で顔を合わせるシーンがある。約束の時間までの間“フーヴァー”ディカプリオは、執務室で腕立て伏せをしてクライドが現れるのを待っている。書類選考でフーヴァーのメガネにかなった応募者たち、その中でも優秀な略歴の他に際立った何かが映ったクライド。まだ履歴書にある略歴と顔写真しか知らない彼を、署員として適任かどうかの期待と、それ以上に沸き立つ特別な感情が、あの腕立て伏せに表れている。あのような演出をした真意を知る術は無いが、“男”で鳴らしてきたクリ爺を考えると、そら腕立て伏せさせるわなという気がしてくる。
評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
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