【No.096】地獄
’79/日本/カラー /124分
監督:神代辰巳
脚本:田中陽造
出演:原田美枝子、林隆三、岸田今日子、石橋蓮司、田中邦衛、金子信雄、加藤嘉
映画を知る者の間での話だが、伝説的な語りぐさを持つ監督は数えきれないほどいる。なかでも神代辰巳という人は70〜80年代に隆盛を極めた日活ロマンポルノで名を挙げたひとりである。他には山本晋也がいるがあの人は本業とはあまり関係ないテレビでの露出で知れ渡っているのに比べ、本業のみでファンが増えたという意味で考えれば、私の知る限り他にいない。これが私が持っている神代辰巳のすべてである。というのもロマンポルノとほぼ無縁な生活を送ってきた私は、この人の映画(一般作も含む)は観たことがなかった。そんな私が神代辰巳の作品を知る第一歩として、よもやこの『地獄』を選ぶとは。いや、選ぶ選ばないというより、たまたまCSでやってたんで見てみただけなのだが。
この映画、数ある神代作品の中でも最も異色な部類に入るらしく(これも語りぐさのひとつかもしれない)、他に観るべき代表作はあるだろうに『地獄』見るかぁと、ファンから呆れられるかもしれない。初心者としては失格だ。
異色とされる由縁のひとつはやはりタイトル通り地獄そのものを描いているところだろう。過酷な状況などに使われる“地獄”という意味ではなく、そのものズバリあの世に存在しているといわれる“地獄”である。もちろん閻魔大王や鬼、皆さんご存じの針山地獄や釜ゆで地獄も登場する。
しかしこの地獄巡りのシーン、当時としては最新の特撮技術(だと思う。もちろん今見たらチープ)を駆使しているため、勿体ぶってるのか知らないが2時間あるうち最後の2、30分でやっとお目見えする。それまでは田舎の旧家を舞台にした母と娘(主演の原田美枝子が二役)二代に渡る怨念のドラマが展開される。作られたのが70年代で、「旧家」と「怨念」が来れば、そのドロドロさ加減は横溝正史が描きそうなソレと同じ(勝手なイメージですが)。当時の影響が濃厚に感じられる設定だ。
しかしまぁ考えてみるに、いろいろ歳を重ねてこの映画を見たのはある意味幸運な巡り合わせだったのかもしれない。これがまだ何も知らない、純真無垢な子供の目にはどう映るのだろう。地獄を見せられるというだけでも相当なトラウマになるはずなのに、これが巨大挽き臼でひき潰される岸田今日子、木に茂った刃物の葉っぱに切り刻まれながらもそこにいる幻の女を奪い合おうとする田中邦衛と石橋蓮司、仕上げに山崎ハコが歌うエンディングテーマを聴かされたら、その後の人生どのような道を歩むのか想像を絶する。
最後に主演を張った原田美枝子。今や確かな演技力を持っているとされる正統派の感を持った女優である。この時はまだデビューも間もない頃だろう。役柄は好色狂いということで脱いだりするんだが、最初に持った「初々しい」「あどけなさが残ってる」といった印象が一気に吹き飛ぶぐらいのグラマラス。何なんだよあの体つきは。昨今の美人とされる女優では決して見られない。芽生え始めた「確かな演技力」もあの体型の前ではかすんでしまう。「貫禄ある女優」というのはああいうのを言うのかもしれない。
ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
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