【No.111】スペースバンパイア

イリー・K

2012年01月04日 09:00



’85/イギリス/カラー /116分
監督:トビー・フーパー
脚本:ダン・オバノン、ドン・ジャコビー
出演:スティーブ・レイズバック、ピーター・ファース、フランク・フィンレー、マチルダ・メイ


 映画のなかの世界では、いろんな異星人(エイリアン)が現れては消え、時に人類へ侵略を仕掛け、絶滅寸前まで追いつめたりしている。侵略する手はいろいろあったが、最近では『インデペンデンス・デイ』の亜流みたいなものが横行する傾向にあるようだ。宇宙船に乗り大挙して地球へ押し入り、対する人類側も軍を動員し、地球の未来を賭けて戦いに身を投じる。攻める異星人に守る人類。両者にはお疲れさまと言ってあげたい。

 しかし、このような武力を持たず、いとも簡単に滅亡寸前まで追いやってしまう映画が四半世紀前に公開されている。『悪魔のいけにえ』で名高いトビー・フーパー監督の『スペースバンパイア』がそれだ。

 ハレー彗星を探査中、失踪していたイギリスの宇宙船が突如現れ、捜索隊が救助に向かう。しかし、船内の乗組員は全滅していた。が、透明なカプセルに覆われた全裸の女性(イラスト参照)を発見し地球に持ち帰る。こいつが異星人なわけであるが、タイトルに“バンパイア”とあるように、こいつとその他の仲間たちは人間の血では無く精気(エネルギーのようなもの)を栄養源にする。監視の目を盗んで異星人は全裸のまま男に近寄り、男が鼻の下を伸ばしたところで精気を一気に吸い取り、見るも無残なミイラの状態にしてしまう。しかも男はそのまま息絶えたのかと思いきや、別の人間から精気を吸い取り元の状態に。「ふえるワカメちゃん式蘇生法」とでも呼ぶべきか。しかし2時間が経過すると精気は消費され再びミイラとなり別の人間を求めるようになる。こうして連鎖的に被害は拡大し、首都ロンドンは大わらわとなる。被害の発端である異星人は全裸のまま姿をくらまし追跡が始まるのであった。

 攻撃能力がある宇宙船や武器を駆使して人類にしこたま攻撃するなんて労力使うより、ストリーキングするだけで人類の命を奪う方がかなり高度で、なおかつタチが悪い。異星人にそれほど負担はかからない省エネ侵略だ。それもこれも全裸の異星人が万人の殿方がひっかかりそうな見事な容姿のおかげである。「こんなイイ思いするんだったらミイラになってもいいよ〜ん」と思われても仕方が無い。

 カテゴリーとしてはこの映画、SFホラーと位置づけられているが、「科学的にはありえないものを見せる」ことがSFのひとつの定義とするなら、その点においてこの映画は非常に高い水準にあると思う。同じくSFホラーで「侵略」「異星人」「全裸の女性」といえば、自ずと『スピーシーズ/種の起原』(‘95)が思い浮かぶ。子孫を残したいが為に次々と男を誘惑する異星人の話。あれもなかなかのものだったが、SFとしては本作よりは劣っている。『スピーシーズ』のほうも、これまた見事な美女に化け、普通の人間のように色仕掛けで男を誘い、部屋へ連れ込んで事を成したあと男を殺す。これは異星人を除けばSFでもなんでもない。しかし『スペースバンパイア』はどうだろう。異星人の存在だけではなく、命の奪い方がいかにSF的かおわかりいただけるだろう。ただ無残に血しぶきをあげて殺されるのではなく、肋骨の本数がわかるほどシワシワにされるのである。そして何よりあんな全裸の女性がうろつく画ズラ自体がもはやSFと呼んでいいのではないか。そんなSF的感動を与えてくれたマチルダ・メイには心から拍手を送りたい。

 あまりに感動し、最近の姿が見たくなったのでYoutubeで調べてみたら、アニータみたいな姿になっていた。四半世紀という時の残酷さは胸を熱くしてくれたSF的感動をいとも簡単に打ち砕いてしまったのだった。



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