【No.108】ハンテッド(’95)
’95/アメリカ/カラー /110分
監督・脚本:J・F・ロートン
出演:クリストファー・ランバート、ジョン・ローン、ジョアン・チェン、
原田芳雄、島田陽子、夏木マリ
『ハンテッド』といえば、03年に公開されたトミー・リー・ジョーンズ主演のサスペンス映画を思い浮かべる人がいるかと思う。いや、いるのかな?正直パッとしない映画だったと当時記憶している。しかし内容は全く関係ない同名の映画が95年に公開されている。こちらはパッとしないどころか、まるで無かったかのように、人々から黙殺された感がある。特に日本人からは。というのもこの映画、日本を舞台にしたアメリカ映画なのである。ここでイヤな予感をされた方がいるかと思うが、もう少しお付き合い頂きたい。
日本に出張で訪れた外国人商社マンは商談がうまくいって上機嫌になった夜、ホテルのバーで出会った女性と一夜を共にする。そして女性の部屋へ入ると、そこで待ち構えた忍者たちから襲撃を受ける。もう一度書く。忍者たちから襲撃を受けるのである。産業スパイか女性の昔の恋人が現れてひと悶着起きるのではなくいきなり忍者。95年頃は、ショー・コスギが火付け役となったアメリカ映画界における忍者映画バブルなど、とうの昔に過ぎ去った時代である。しかも作ったのがハリウッドの大手映画会社ユニバーサルときた。この映画で買える点といったらそこだけだ。
このあと物語は女性は絶命し、外人は一命は取り留めたものの、搬送先の病院である日本人夫婦が接近してくる。ボディガードを申し出る夫婦に外人は断るが、生存を聞きつけた忍者たちが病院を襲撃。辛くも脱出した外人は、断った際に渡された連絡先を頼りに夫婦と合流。実はこの夫婦、由緒正しい武家の末裔で忍者集団とは何百年に渡る因縁の関係にあった。ボディガードを申し出たのは忍者集団との決着にこぎつける為のエサにしたかったのである。で、そのエサである外人を連れて武家の本拠地である島へ連れて行き、忍者集団をおびき寄せることを画策する。どうだろうか、外国人商社マンと日本人女性のアバンチュールという導入部からは想像できない突飛な展開。犯罪ものかと思ったら、いつの間にかバンパイアものになっていた『フロム・ダスク・ティル・ドーン』に負けず劣らずの突飛さだ。そんな映画を俳優陣は何の臆面も無く真面目に演じているのである。当然の務めだが映画が映画だけに誰も得はしないだろう。その俳優陣は日本人夫婦に先日急逝した原田芳雄にMUTEKIでAVデビューした島田陽子。くノ一役に夏木マリ(この人がいちばん得をしていない)、そして忍者の頭領になぜかジョン・ローン。アジア人なら顔はみな同じという欧米人の大ざっぱさがよく表れたキャスティング。
と、まぁ口をあんぐりしたまま見るしかない映画だが、アクションシーンはさすがハリウッドだけあってしっかりしている。チャンバラが主になるが、日本人俳優陣に見劣りせずジョン・ローンの刀さばきもなかなか堂に入っている。そして何より原田芳雄、初めてカッコイイと思った。外人を島へ連れて行く道中、忍者たちと対決するいちばんの見せ場がある。次々と襲いかかる夏木マリ率いる忍者軍団に対し、コート姿に刀で応戦するのにはシビれた。ただ、戦ってる場所が新幹線の中。ここでも口あんぐりだ。
そして『キル・ビル』でも経験した通り、緊迫したシーンに放たれる外国人俳優の日本語セリフ、その破壊力たるや筆舌に尽くしがたいものがある。日本人役であるジョン・ローン、忍者のホテル襲撃シーンで女性を斬り殺す前に問いかける一言に腰がくだけた。「カクゴォー、ワ、デキテェーイルゥー、ダロウナ(覚悟は出来ているだろうな?)」文面でイントネーションをお伝えできないのが残念だ。
珍品という他に紹介の言葉が見つからないこの映画、日本描写の誤解度、ストーリーのぶっ飛び度、外国人俳優の日本語の堪能度、いずれも後世に残すべき酷さではあるが、こういう類いの映画に免疫ができている私には楽しめた部分もあるので、いつもの評価は初の「採点不能」とさせていただく。
ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
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