【No.061】パッチギ! LOVE&PEACE

イリー・K

2007年10月06日 12:00



●8月11日鑑賞
’07/日本/カラー/127分
監督:井筒和幸
出演:井坂俊哉、中村ゆり、西島秀俊、藤井隆、杉本哲太




 在日朝鮮人を題材にした映画というのは今となっては珍しくも何ともない。珍しい時代があったのかと言われると、わたしは何とも言えないのだが、最近ではこうしたものがめっきり増えたように思う。

 核や拉致問題などの北朝鮮絡みの事件でマスコミ報道が加熱したあたりから、『GO』が登場し、『血と骨』はけっこうな話題を集めた。しかしどちらも世間の注目が集まったのは「在日」ではなく、実際私も『GO』は窪塚洋介のチャラチャラ感がハナについて観なかったし、『血と骨』は大阪弁を喋るビートたけしの怪演が興味を誘って観たので、両作品が掲げていた「在日」というテーマは私の中では頭の片隅に置いてある程度のものだった。古くは大島渚監督の『絞死刑』もそういう映画だったっけ。

 そんな私の在日観にはっきり意識を植えさせるきっかけになったのが、井筒和幸監督の『パッチギ!』である。

 有名俳優は起用しないことによって(この時主演だった沢尻エリカが一躍有名になったのは本作以降)、テーマからよそ見しそうなスター性を削ぎ落とし、なおかつ娯楽性に富み、肩肘張らず素直に観られることにより、在日問題に関心を向けさせるという作りは(こう書くとプロパガンダっぽいが、そうではない)実に巧みで、興業面、批評とも大成功に収めた。

 そして今日の作品はその続編にあたる。前作では在日の女子高生キョンジャと日本人男子校生の淡い恋を主軸にして、朝鮮高校と他校との抗争などを交えた青春モノだったが、今回はその6年後のキョンジャとその一家(本作はその兄アンソンが主役)を中心にした家族モノにシフトチェンジ。続編モノの常だが、前作の好評を受け本作は更にグレードアップ。出演陣は配役の隅々まで有名どころを使い、温水洋一や木村祐一、松尾貴史などはほんの1シーン扱いという贅沢の極みで、前作に続きその見所であった猛烈なケンカシーンに加え、今回はアンソンの父が生きた太平洋戦争下の時代も描かれる。バス横転で見入っていた前作と違い、電車内の乱闘から戦闘機による容赦ない機銃掃射の雨と大爆撃によるスペクタクルともの凄いことになっている。

・・・が、これほどまでに会心の一作に仕上がっているのに私にはどうものめりこめなかった。というのは作品の出来とかではなく、鑑賞までに目にしたやたらと感情に訴えかけるような宣伝文句に原因はある。「あふれる涙」だとか「命をつなぐ感動のドラマ」だとかの感動一辺倒に辟易し、クールダウンしてしまったのだ。安易に「泣き」に直結するようなフレーズを使用するのはいかがなものか。これは「確実にそうさせる」と宣言しているようなものであって、こういう方法は時としてアダになったりする場合がある。それだけハードルを上げることになるから、その分ハズした時の虚脱感は大きい。「泣き」の対極にある「笑い」にしても「大爆笑!」と謳われるコメディほど笑えないものはないだろう。いや、本作の涙を流すような場面が全然泣けないだとか、ニセモノだとか言っているのではない。ただ、私みたいなヘソ曲がりがいるので、余計なひと言は添えない方がいいですよということだ。でもそれだけ自信があるということなんだろうけど。井筒監督も自身のコラムで「泣かせまっせ〜!」とやたら連呼してたからなぁ。なんか押しつけがましい気がするけど。

 あっ、結局冒頭の「在日」の話はどこへ行ったのやら。



ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。

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