【No.092】母なる証明

イリー・K

2010年02月16日 02:00


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’09/韓国/カラー
監督・原案・脚本:ポン・ジュノ
出演:キム・ヘジャ、ウォンビン、チン・グ、ユン・ジェムン、チョン・ミソン



 我が子に傾ける母親の愛情というものは海よりも深い。『母なる証明』に出てくる母親もまた然りである。ただ、この母親、その愛情があまりにも深すぎて溺れてしまっている。その溺れる様は見ようによっては心打たれるようで無様であり時には滑稽でもある。

 効くのかどうかわからない薬草を売って、貧しいながらも生計を立てる母親は、知的障害を持つ息子と二人暮らし。仕事をしている間も、表で遊ぶ息子からは決して目を離さないほどの寵愛ぶりだ。だが、息子は女子高生殺人の容疑をかけられ、突然警察に連行されてしまう。ウチの子供がそんなことするはずがない。子を愛する親なら誰しもが抱く信念を胸に、息子の無実を証明するために奔走する。警察の捜査は形式的なだけで容疑者はすでに手の内にあるので良しとしているし、頼んだ弁護士は刑の減軽に甘んじているだけでやる気なし。現実が希望から遠ざかるほど母親の執念は激しさを増し、その行動は常軌を逸したものになっていく。このようにして人並み程度の愛情が息子逮捕というアクシデントを境にズルズルと底なしの愛情にはまり溺れていくのである。

 本作の監督、ポン・ジュノは本国はもとより世界的に見て天才と賞賛されている人らしい。その評判には少々首をかしげてしまうが、本作を含んで私が観た3作はどれも良い意味で「異質」であることは確かだ。それにこの人は作品毎に「明」と「暗」を交互に作っている印象がある。少女が主人公のコメディ『ほえる犬は噛まない』(これは未見だが、タイトルからして内容はだいたい想像できる)、実際に村で起こった未解決の殺人事件を扱ったミステリー『殺人の追憶』、けったいな韓国産怪獣映画『グエムル〜漢江の怪物〜』ときて本作に至っている。『ほえる犬—』と『グエムル』が「明」とすれば『殺人の追憶』と本作は「暗」だ。しかも「暗」の2作は方向性も似ている。画の質感まで。

 そして本作において、この監督の異質さが最も際立っているのは、あの母親を踊らせているところだ。不気味というかなんというか怪しさに満ちた踊り。最初はなんなんだと観てるこっちは呆気にとられるが、底なしの愛情に溺れ疲れたから、それを発散するためなのかと勝手に解釈すると、あの踊りは味わい深いものになってくる。でも余計疲れると思うんだけど。




ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。

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