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2014年11月19日

【No.161】マタンゴ

【No.161】マタンゴ

’63/日本/カラー /89分
監督:本多猪四郎
出演:久保明 水野久美 小泉博 佐原健二 太刀川寛 土屋嘉男 八代美紀
 

 いよいよ冬。鍋が恋しくなる季節の到来だ。白菜や大根と並んで鍋野菜の代表格といえばキノコである。松茸、椎茸、えのきにしめじ。みそやしょうゆベース、キムチ鍋や豆乳鍋でも相性抜群。鍋でなくてもホイル焼きでも良い。バターが旨味を引き立ててくれる。和風パスタも捨てがたい・・・あ、これは料理ブログではなかった。チャーハンしか作れない人間が何を言っているんだ。そんなことよりも今日はキノコにまつわる映画のご紹介である。その名も『マタンゴ』。『ゴジラ』第一作を生んだ本多猪四郎監督の手によりホラーテイストに仕上げた本作、最初聞いたときはなんじゃそのタイトルはと思った。制作された昭和30年代にしては珍しい横文字のタイトル。しかしまったくホラーな響きがしない。怖がらせる気があるんだろうか。関根勤いわく昔は逆さにしてゴンタマとか言って遊んでたそうだ。

 キノコをホラーにするとはどういうことだろうか。先述にあるように食用に出回っているきのこを除けば手を出すには勇気が要る危険なものである。それゆえスーパーマリオなどを代表とする半ばマンガチックな「毒」のイメージは切り離せない。種類によっては死にも至らしめる恐ろしいものだが、この映画がもっと恐ろしいのは口にした人間自身がキノコになってしまうのだ。あまりにB級で子供向けではないのかという向きもあるだろうが、これがなかなかバカにはできないのである。

 大型ヨットでクルージングに出た若い男女7人は嵐で遭難し、ある無人島に漂着する。備蓄した食料は底をつき、通信手段のラジオも聞けなくなった彼らは島に降り立ち、水爆実験の影響を調査していたらしい難破船を見つけ、そこで救助が来るまでの住処にする。しかし一向に来る気配がない救助に苛立ち、食料や女性をめぐって諍いを起こし始め、次第に銃や武器を交えた争いごとへと発展する。島に食料を探そうにもウミガメが卵を産みに来るくらいで生き物らしきものは見当たらない。あるのは山に自生したおびただしい数のキノコ。難破船から「キノコに手を出してはいけない」と記された日記が見つかったこともあり、警戒するのだが餓死に怯えた人間が一人、また一人と手を出していく。

 登場する男女は社長や作家、大学教授にクラブの歌手と社会生活上は真っ当に生きている人間たちが生きる術が無い極限状態に追い込まれた時に初めてむき出しとなる醜い本性が互いにぶつかり合うのが一連のサバイバルものの醍醐味であるが、そこに放射能まみれの奇怪なキノコを投入するとは放射能汚染がタイムリーな現代を見据えているようで昔の映画人というのは今に比べて骨太な人が何と多かったことか。製作した東宝のお家芸である特撮が本作でも花開いており、さすがにCG全盛の現代からはもちろん見劣りはするがそれでもすごい。何度も見た海洋での遭難シーンはいつものクオリティだがやはり見逃してはいけないのは毒々しいキノコの描写である。特に霧が濃くなりキノコが成長していくシーン。本当にモリモリと成長しているのである。Wikipediaによれば、開発されたばかりの発砲ウレタンなる物質が使用されており水分に反応して膨れ上がる性質をそのまま使用しているそうだ。CGが悪いとはいわないが科学的知識はもとより特撮の成果を挙げるヒントを求めあらゆる知識を吸収していたであろう昔の映画人の苦労を考えると、どんなに見劣りしても「ああ、贅沢。」と思えてしまう。

 キノコを食べ続けるとキノコ怪人マタンゴへと変身するのだが、キノコには覚醒作用があるらしく、人間としての意識が薄れてゆくなか延々ヘラヘラと笑みを浮かべている。そんな表情でキノコを口にする姿はジャンキーそのもの。完全にマタンゴ怪人になりきれていない半マタンゴ怪人(天本英世が演じてるのはあとから知った)は夢遊病者のようにフラフラと彷徨い歩くだけである。完全体のマタンゴ怪人は襲いかかるというわけではなく、寄りかかって自分たちのテリトリーへ引っ張ろうとする、“仲間”にしようとしているわけだ。ホラーで扱うスタンダードな恐怖というのは異形の者に身を滅ぼされてしまうかもしれないことによって滲み出るものだが、本作が叩き付けるのは同じ異形の者にされてしまう恐怖である。これは映画ではないんだが相通ずるものとして志村のスイカ人間を思い出した(byごきげんテレビ)。スイカの早食い芸をよくやっていた頃の志村の身体に異変が起こりスイカ人間に変身。夜な夜な街に繰り出した志村は次々に人々を襲い“仲間”を増やしていくというものだった。コントの体裁をとってはいるが変身後の志村は割とマジモードだったことにちょっとしたトラウマを覚えたものだった。

【No.161】マタンゴ
評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。


タグ :マタンゴ


Posted by イリー・K at 23:30│Comments(3)【ま】
この記事へのコメント
>イリ―さん
志村のすいか人間思い出しました。
確かに普段のコントとは異質で怖かった覚えがあります。

          石原
Posted by 尚巴志スピリッツ尚巴志スピリッツ at 2014年11月21日 00:51
>イリ―さん
志村のすいか人間思い出しました。
確かに普段のコントとは異質で怖かった覚えがあります。

          石原
Posted by 尚巴志スピリッツ尚巴志スピリッツ at 2014年11月21日 00:51
>石原さん

けっこう記憶に残っている方は多いようですね。
あれはソフト化はされてるんでしょうかね。たぶん無理ですね。
Posted by イリー・Kイリー・K at 2014年11月21日 23:36
 
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