【No.018】雪に願うこと

イリー・K

2006年11月12日 12:00



●7月1日鑑賞
’05/日本/カラー/112 分 
監督:根岸吉太郎 
出演:伊勢谷友介、佐藤浩市、小泉今日子、吹石一恵


 今や沖縄は夏真っ盛り。皆さんいかがお過ごしでしょうか。と、今日の書き出しはいつもとは違ってあいさつから始めてみたが、この時期は沖縄が観光立県としての面目を日本全国にアピールする絶好の季節である。

しかし私にとってこの季節は1年間のなかでいちばんうっとうしいことこの上ない。その原因は何といってもこの暑さ。外に出て3分も経てば水を浴びたかのようにTシャツは汗でビショビショ。額の汗も何度拭き取っても滴り落ちてくるのでハンカチは結構なしみ込み具合。そんなうっとうしさに苛まれながら桜坂劇場へ向かう道中、私の行く手を阻むようにこの時期増え始める観光客が国際通りの歩道で周りを見回しながらノロノロと練り歩いているのを見ると、端っこ歩けと後ろからケツを蹴り上げたくなってくる。理性崩壊寸前まで追いつめられるこの陰うつな気分から解放されたくて今日選んだのは『雪に願うこと』。

 このタイトルから想像するにスクリーンの中に広がるであろう我々沖縄人には普段見られない大雪原に、汗にまみれたこの身を投じたいという思いにかられ、劇場へ駆け込んだ。

 北海道・帯広を舞台に、ばんえい競馬(もとは農耕馬だった輓馬に数百キロのソリを曳かせて障害を越えるレースを行う競馬)の厩舎を営む威男のもとに、事業に失敗し、転がり込んできた弟・学との葛藤と互いの絆を再確認する過程を追いながら、家族としてのあり方を見つめ直すという人間ドラマだが、私にはそんなことは二の次で、まずは映画の北の大地を堪能。もう見渡すかぎり雪、雪、雪。すっかり満喫してしまい、劇場から一歩外へ出れば、灼熱の沖縄であることが嘘のようであった。本作は暑さしのぎには持ってこいの1本であるとまずは言っておこう。だが、こんな見方をされたようでは、監督の根岸吉太郎がさぞかし不本意に思われるかもしれないので、もうちょい内容に触れておくと、人間ドラマの部分も先に開かれた東京国際映画祭で高評価を得られただけあってなかなか良い。それに並行してこの映画の背景であるばんえい競馬の雄大でおおらかな空気の中で、力を振り絞って一歩一歩前進しようとする輓馬の情景がマッチして、まるで手に取った雪が溶けていくようにドラマのひとつひとつが心にしみ込んでいくようだ。…とそんな作品の世界にゆったり浸っているのもそう長くは続かなかった。

 以前、私は『ホテルルワンダ』の回で胴長オッサンの一件を書いたが(第7号参照)この時、またしても私の感動をブチ壊す新たな刺客が現れた。それは孫連れババァ(見た目だけで命名)である。その名の通り孫らしい男の子を連れた孫連れババァ(いちいちこう書くのはうっとうしいので以下?孫婆?に略)は私のひとつ空けて右隣の席に並んで座り、しばらく数分は何もなかったものの、見るからに5、6歳とおぼしきこの孫が、子供ウケの要素皆無の映画をおとなしく観るわけがなく、やがて手に持っていたおもちゃの剣を振り回したり、携帯電話をパカパカ開け閉めしたりして遊び始めた。孫婆は孫をおとなしくさせようと膝に乗せていた大きな鞄から、お菓子やら、パックに詰めたお惣菜やらを取り出して孫に与えていた。以降はそれの繰り返し。おかげで私はいつしか映画よりもそっちの方が気になり始め、最後はスクリーンと孫をあやす孫婆を交互に見ているのだった。真夏のうっとうしさからここまで逃げても、まさかこんな形で私に襲いかかってくるとは。迷惑客撲滅キャンペーンを推進している私にとっては涙がチョチョ切れる思いだ。



ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。

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