【No.034】ゆれる
●12月2日鑑賞
’05/日本/カラー/119分
原案・脚本・監督:西川美和
出演:オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、新井浩文、真木よう子、蟹江敬三
今や女性の社会進出は著しいといわれてずいぶんと久しい。各方面の職業に女性が台頭してきているのは事実である。社会を映し出すテレビをつければ、広告代理店でバリバリに働くキャリアウーマンや、新規事業で大成功を収めた女社長の特集やらで画面を賑わしている。
映画監督を生業とする人たちにも当然女性がいるわけで、日夜、女性監督たちは作品づくりに勤しんでいる。しかし、今までに活躍した女性監督がいたのか私の記憶の糸を辿ってみると日本映画界では残念ながらいなかった。海外で思い出すのはペニー・マーシャル(『レナードの朝』)とキャスリン・ビグロー(『ハート・ブルー』、ジェームズ・キャメロンの元カミさん)ぐらいか。映画界というのはまだまだ女性が棲みにくい世界なのか。
しかし私が抱くこの現状は日本映画界においては過去の話になりそうである。ここ最近、頭角を表す女性監督が続々出現してきているのだ。
今まで取り上げた作品にも女性監督の名はあった。『三年身籠る』の唯野未歩子、『転がれ!たま子』の新藤風、『かもめ食堂』の荻上直子。そして今回、その中でも抜きん出た才能を持った女性監督が現れた。その人の名は西川美和。
彼女(こう書くと何か親しいような感じがして恥ずかしいですね。)の長編デビュー作『蛇イチゴ』が公開されたのは今から4年前。この時は映画初主演となった雨上がり決死隊(お笑いコンビ)の宮迫博之にスポットが当てられ、そこそこ話題にはなったが、作品の評判はあまりパッとしない印象だった。というより、私にとっては売れてる芸人を話題作りの為に使って、女性監督が撮ってるからヤワな作品に違いないと勝手な偏見があって一切興味を持てなかった。
だが今日紹介の『ゆれる』がカンヌ国際映画祭に出品という話題が持ち上がったので、監督はどれほどの腕なのかとDVDを借りて観たのだが、あの時持った私の偏見がとんでもない間違いであった。西川さんごめんなさいと頭を深々と下げてしまう程の大変結構な逸品であった。どれだけ結構な内容かは紙数の都合上、ここで紹介はできないので、今すぐビデオ屋へ走って借りて観る事をおすすめする。観て損はないから。
そして今回の『ゆれる』。手ぐすね引いてやっと観れた作品であるが、いやぁ、うまいっ!本当にうまいとしかいいようがない。この人(西川)はこれまでどんな人生を歩んだんだろうと思いを巡らせるくらいに物の見方が達観している。それがシーン一つひとつに反映され、なんでもないシーンでもグイグイと引き込ませてくれる。
多くの支持を得ている名のある監督というのは、作品を撮るごとに試行錯誤を繰り返してようやく独自のカラー(持ち味とも呼んでいい)を持ち得るものだが、西川監督の場合、早くもこの長編2作目でカラーを確立したといっていいだろう。あの役者の演技の間といい、カメラアングルといい、音楽の使い方といい、劇的な方向へ持っていかず、かといって冗長にもならない微妙なラインの狙い方が絶妙である。何だかよくわからない褒め方になってしまいましたね。
演出以外で良かったのは香川照之。こやつはとてつもない役者である。窮地に追い込まれたときの演技をさせたら一級品だ。まさに凄まじいの一言に尽きる。そして最後のシーンでニヤリと見せるえもいわれぬ笑顔に私は心の中で悲鳴を上げてしまった。これだけでも1,600円払う価値は充分あると言えよう。
ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
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