【No.086】ユナイテッド93

イリー・K

2009年10月31日 08:00





’06/アメリカ=イギリス/カラー/111分
監督:ポール・グリーングラス




2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件。「9.11」という名称で簡略化されるほど、あのときの衝撃は今なお私たちの記憶に新しいところだが、発生した直後から「いつかはハリウッドが映画にするだろう」なんていう話がささやかれていたものである。ロバート・デ・ニーロが経営しているレストランにプロデューサーが映画化の話を持ちかけて、激怒したデ・ニーロに追い出されたという話もあったらしい。

それから5年、ハリウッドが遂に動き出した。『ユナイテッド93』というタイトルで製作されたこの映画は発生当日の様子とハイジャックされた4機のうち唯一、目標攻撃地点まで到達されないまま墜落した旅客機内部(憶測込み)を描いたドキュメンタリー色が濃い作品である。公開当時、「とうとう作りやがったな」ってな関心を抱きつつも、私は全くもって受け付けず観ることはなかった。観るにはもう少しの時間が必要との判断である。

んで、こないだ日曜日の夜に丁度CSで流れるので、もうそろそろいいだろうと解禁して初めて目にしたが、いやぁ、観るんじゃなかった。何せあれから9年も経っているからある程度は自分のなかで落ち着いてきたかなとは思ったが、やっぱり重い。あの一つひとつのディティールが功を奏して発生するリアルさが、テレビに釘付けになったあのときの記憶を蘇らせるのだ。それでありながらグイグイと引き込ませる力があって、作品としてしっかりしているのである。有名俳優は起用せず、抑揚のあるBGMなどは極力排し、特に後半からの冷徹なほどに淡々と進行する造りなんかは見事と言わざるを得ない。しかし、しかしである。そんな映画を作らせる需要が一体どこにあったのか。

「拝金主義」という言葉が思い浮かぶハリウッドが話題性重視で取り上げたかというとあまりに軽薄で考えにくい。あと賞狙いというわけでもなさそう。実際ひとつも賞レースには引っかかっていなかった(と記憶している)し。「記憶を風化させないため」とかでも反戦映画じゃあるまいし(いちおう反戦映画の一種ではあるけど)、がっつりみんな知ってることなんだから忘れるわけがない。レクイエム的な意図で作ったのであれば聞こえはいいが、誰しも振り返りたくない過去の再現、しかも想像したくもないあの機内の状況を憶測で描いて誰が観たがるというのか。ここまで、さも悪いかのような書き方になっちゃってるがそうではなく、観るものに確実に何かを投げかける映画ではあるが、存在意義がわからないということで今回書いてみました。ただ、ひとつだけ言えることは休み明けを控えた日曜日の夜中に観る映画ではないということです。観た翌日なんてもうブルーマンデーどころの騒ぎじゃない。映画から己に投げかけられた何かをきちんと消化するには最低1日は必要でしょう。



ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。

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