【No.164】FRANK -フランク-
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’14/イギリス・アイルランド/95分/カラー
監督:レニー・アブラハムソン
出演:マイケル・ファスベンダー ドーナル・グリーソン マギー・ギレンホール スクート・マクネイリー
有名無名を問わず、音楽やアートで活動するアーティストというのは一般社会には迎合できないマイノリティな側面が強いように思われる。たまにいるでしょう自己主張が強すぎて協調性がまるでなさそうな「ああ、この人は普通の社会人としてはやっていけないかもな」という印象を抱かせるような人が。もちろん社会と両立して活動を続けるアーティストもいるだろうが(とかいいながら小椋佳ぐらいしか思い浮かばないが)、溢れんばかりのクリエイティビティとは相反するように社会に適応する能力が乏しい。なかには一般常識でさえもはみ出している者もいたりする。ハタから見ればこれは性格的なものなのか精神的な病からなのかわからないような人たち。まぁ、一言で言えば変人ということであるが、世の中には変人でもいいから世に認められたいと切に願いながら日々社会生活に従事する人もいるはず。今日取り上げる『FRANK-フランク-』に登場するジョン君もそのひとりである。
いつかはミュージシャンになることを夢見ながら会社勤めをしている彼はひょんなことからあるバンドのキーボードとしてメンバーに加わることになる。そのバンド「ソロンフォルブス」は既存の音楽の概念を覆すような前衛的な作風を得意とし、メンバーは一癖も二癖もあるような人物ばかり。特に変わっているのはリーダーである常にハリボテの巨大な被り物をしているフランク。リーダーの素顔をメンバーは誰一人として知らない。決して脱ぐことはなく、食事時はストローで流動食を摂るという徹底ぶり。そんな彼らのレコーディングに参加するジョンであるが、変わり者揃いのバンドが予定調和なレコーディングをするはずがなく、たった数日のつもりがやってきたのは人里離れた山奥で一年近くの長期にわたりレコーディングが行われる。
いやぁ、しかし劇中のジョン君の奮闘ぶりを見ていると変人になろうとするのはおろか、変人を相手にするのは大変なことである。よしんば慣れない料理がケチをつけられるのはいいとしても、底が付いた滞在費になけなしの貯金を投げうっても感謝の一言も言われない。良かれと思って取った行動がすべて裏目に出てメンバーには全く受け入れてもらえない。排他的な雰囲気のなか、山小屋にこもってずっとこんな生活を続けているとさすがにしんどくなるが、それでも続けられるのはリーダー・フランクの存在があってこそ。その秀でた音楽性がジョン君を惹き付け、厳しい面もあるが基本的には優しく褒めることもある一生付いて行きたくなる人望の持ち主であるがいかんせん覆面である。円滑なコミュニケーションを計るためか「今、(覆面のなかでは)笑ってる。」とわざわざ説明したりするしやっぱり変人。そんな彼らをあらぬ方向へ導いてしまうジョン君が最後にとった行動からは変人にもいろいろだし、生半可な姿勢で関わってはいけない覚悟が必要であることを再確認した。活躍されているアーティストのマネジメントなり何らかの形で関わっている周辺の人たちの苦労が忍ばれる。
知り合いにアーティストもいなければ、劇中レベルの変人もいない私がこんな汲み取り方をするのはそういったことにさして興味は無く、本作を観たのは実は数少ない「覆面映画」として興味をそそられたのである。
キャラ付けしやすいし、「覆面をしている」というだけで強烈な一個性となるゆえ覚えやすいからか、レスラーや占い師などショー的な扱いで重宝がられる覆面。しかし、映画に限って言えばジェイソンを代表格とする70〜80年代に興隆したスラッシャームービーでは必須のアイテムだった。「顔がバレないから」というこれ以外にはない理由はあるが、むごたらしい殺人を犯す人物の素顔はどういったものかとストーリーを引っ張る助けになる。しかし対極のコメディ路線である『FRANK』の場合、演じているのは『それでも夜は明ける』でサディスト農場主が記憶に新しいマイケル・ファスベンダー。顔が割れている。スラッシャームービーとはこれまた逆で被る理由が大きな謎として物語を引っ張るわけだ。
役割としても当然違う。人と対する時、素顔のままではまともに目も合わせられないような人間が、外的対象物との間を遮蔽することによって初めて“己”を発揮できる守護の役割を果たす。覆面に限らずともサングラスやメイクなど素顔に何かしら施すと変身する人っているだろう。最近はやってないらしいが中津川ジャンボリーという名のフォークシンガーに扮してバラエティーに出る竹中直人しかりだ。私だってサングラスやメイクなどしないが車に乗った途端に平気で前方の車を声を出して罵ったりなんかする。『こち亀』の本田みたいに。
評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
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