【No.089】ディア・ドクター

イリー・K

2009年12月10日 02:00


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’08/日本/カラー/127分
原作・脚本・監督:西川美和
出演:笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子、井川遥、八千草薫



 笑福亭鶴瓶が最近何やら映画づいている。いや、昔から映画に出続けてはいた。しかしほんの端役に過ぎなかったものばかりだったのが、準主役級が増えて遂には今度の新春、吉永小百合と共演である。どうもテレビ見ててげっそり痩せたうえに無精ひげなんか生やして小汚くなったなと思ってたら、その映画での役作りのためらしい。吉永小百合だものな。監督は山田洋次だし。「ポスト寅さん」的なものを狙っているのかな。そんな想像は置いておくとしても、年を経るごとに「映画に出る」ということに対して並々ならぬ意気込みが湧き上がっているように見える。そして先日公開された『ディア・ドクター』では初の主役だ。

 監督は、日本映画界の新たな脅威、西川美和。何に対しての“脅威”なのかよくわからないが、前2作(『蛇イチゴ』、『ゆれる』)で独自のカラーを若くして確立してしまった実績を踏まえ、今後も続くであろう活躍を考えれば充分“脅威”である。さらに経歴にまでさかのぼってみると「早稲田(大学)出身」→「テレビ制作会社に入り、その働きぶりから是枝裕和の誘いにより映画監督に」→「処女作から高い評価を得る」とまさにエリート街道まっしぐら。そして本作の製作にあたっては長期にわたる綿密な取材と脚本執筆を行ったという。エリートの名に恥じない働きっぷりだ。そんな経緯を経て完成した本作を期待して観てみると、これがあんまりハマらなかったのである。意外なほどに。本作が投げかけるところの「僻地医療」という社会性が強いテーマに疎い私が悪かったのか、瑛太の演技が邪魔くさかったからか。前2作に比べ衰えているわけでもなく、相変わらず捉え方がウマかったはずなのにどういうわけだろう。鑑賞後いろいろ考えたが、この消化不良の原因はどうも鶴瓶にあるようだ。

 テレビで見る鶴瓶は本職である落語はせず、いわゆる「フリートーク」の類いでバラエティに出続けている。仕事場や実生活などで遭遇した「ネタ話」をするのが主であるが、「A-studio」という番組のエンディングで、その日招いたゲストにまつわる「いい話」を語ったり、「家族に乾杯!」で片田舎の村人と触れ合ったりと「ヒューマニズム」な顔を見せている。これが主役抜擢の大きな要因であろう。しかしそんな顔を含めて芸風は極めてあざとい。滑舌がいいとは言いがたいあのダラダラした喋り方や、後輩芸人からイジられやすいように常に雑に振る舞うのは「あざとさ」の何ものでもない。泥酔してチンコさらけ出したのもそのせいか。まぁ、面白いからいいんだけれども。

 しかしこの芸風が演技の妨げにでもなったのか西川監督が汗水流して構築した物語の世界を侵蝕してしまったようである。ポッと出のエリートも敵わなかったということか。言ってもベテランだからねぇ鶴瓶は。

 鶴瓶はなるべく中心には据えないで、そこら辺でチョロチョロ演じさせて、しばらくしたら捌けさせるような『母べぇ』でのポジションぐらいで充分かもしれない。




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