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2015年05月14日

【No.173】龍三と七人の子分たち

【No.173】龍三と七人の子分たち
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’15/日本/111分/カラー
監督・脚本・編集:北野武
出演:藤竜也 近藤正臣 中尾彬 樋浦勉 伊藤幸純 吉澤健 小野寺昭


 まだ公開される前のことだが、ラジオで中尾彬がちょっとしたネタバレをこぼしていやがった。「監督は俺に恨みでもあるのかね」と少々ボヤき気味に。『アキレスと亀』『アウトレイジビヨンド』に続く3作目の出演でどんな“扱い”を今回は受けるのか楽しみであった私はがっかりしつつもフタを開けてみたら、そんながっかり感をひっくりかえす活躍ぶり。なんだかんだ言っておいしい思いしてるじゃないの。結局あのボヤきは自慢だったんだな。まったくいけ好かない野郎だぜあのオヤジ。

 まぁそれはさておき、この北野武監督17作目となる『龍三と七人の子分たち』。久々のコメディだ。コメディとは銘打たないまでもコメディ要素が入った作品も含めて振り返ると、コメディアンである自負からか北野監督は作品ごとに手を替え品を替えコメディを送り出している。それゆえ中には空回りしている作品も少なく無い。コンセプトから何からくだらなさを徹底した初コメディ『みんな〜やってるか!』やテレビのたけしをそのまま映画に持ち込んだ『菊次郎の夏』という好例もあるが、空回りに陥ってしまうのはアート指向が入った類いである。『TAKESHI’S』ははっきり言って厄介というほかなく、ベタにもほどがある『監督・ばんざい!』なんていう困った逸品もあった。そんな過去作から『龍三〜』には期待と不安が入り交じっていたのである。

 元ヤクザの組長で家庭はおろか世間からも鼻摘まみにされている龍三(藤竜也)を始めとしたかつての仲間7人が悪事で儲ける若者たちに立ち向かうその発端が「オレオレ詐欺」というところに時代錯誤感が拭えなかったが、これは監督曰く脚本が『アウトレイジ』よりも前、ちょうど騒がれ始めた頃に書かれたものであるとのこと。裏切りに裏切りを重ねる『仁義なき戦い』タイプが多かった『アウトレイジ』に比べ、元ヤクザの老人たちは『仁義〜』よりも古い義理や人情に生きる任侠映画タイプ。若者たちを成敗する闘志は充分だが体はヨボヨボ。老体にむち打って立ち上がるのである。

 さて、本作のコメディとしての正否はいかほどだったかというと、わりあい娯楽映画のセオリーに沿った正攻法であった印象を受ける。さっきこちょこちょくすぐっていたのがここで活かされるのかといった伏線も張られていたり、シリアスゆえに『アウトレイジ』や過去のヤクザ絡みの作品ではできなかったヤクザ社会をいじった小ネタを随所に散りばめたりして今度こそ笑える箇所はいくつかあった。ただ、1シーンをまるまる使ってまでして伊丹十三からパクったと疑わしいギャグ(『マルサの女2』)があったのだが、コレに関してはさらりと一瞬だけ見せていた伊丹の方に軍配だ。

 現代では忘れ去られた義理や人情を絶対的価値とする老人たち。けんか売ったあとは一蓮托生、“もうどうにでもなれ精神”をまとった彼らに悲壮感はまるでなし。むしろカラっとしていてとても明るい。それがそのまま雰囲気となって作品全体を覆っているが、惜しむらくは設定の素材にしては無難というかマイルドであったところ。過去作からすべてに通底する北野監督独特のシニカルな視点を今回は思いっきりブラックコメディに転化しても良かったのではないかと思う。中尾彬の“活躍”もあったことだし。老人の顔ぶれは「五寸釘のヒデ」「早撃ちのマック」「カミソリのタカ」など必殺仕事人まがいのマンガチックなキャラクターなんだから正気の沙汰じゃできないことをもっとやらかして、PG-12を覚悟、いや何だったらR-18の成人指定にされるほど過激にいってほしかった。

 晩年になっても価値観を誰にも譲ること無く頑なに貫く生き方というのは実に潔いが、その価値観によってはハタ迷惑でタチが悪いものにもなる。ましてやそれがヤクザとなるとなおさらだ。ヤケクソになる年寄りほどコワいものはないからね。急に某代議士と熱愛があった過去をカミングアウトした浅香光代(86歳)の目的がわからないヤケクソはもっとコワいんだけど。

【No.173】龍三と七人の子分たち
評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。




Posted by イリー・K at 20:23│Comments(0)【り】
 
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