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2015年03月14日

【No.168】アメリカン・スナイパー

【No.168】アメリカン・スナイパー
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’14/アメリカ/カラー /132分
製作・監督:クリント・イーストウッド
出演:ブラッドリー・クーパー シエナ・ミラー ルーク・グライムス カイル・ガルナー
 

 人間はその行動や趣向においてタイプが二極に別れるものがある。タバコを吸う人と吸わない人、乗用車を所有している人と所有していない人、LINEをする人としない人といろいろある。映画館でもエンドロールが流れ始めたら席を立つ人と立たない人というのがいる。私はもちろん後者である。「日本語字幕 ●●●(訳者の名)」の字幕が出てもまだ立たない。場内が明天しても立たないことはたまにある。たまに最後の最後に出て来るオマケ的映像を期待しているわけでもない。それはそれで「ざまぁ見やがれ」と思わなくも無いが、席を立たないのはよく言う「映画の余韻を浸る」というのに加えて、流儀として制作者への礼儀としてやっているというのもある。

 クリ爺ことクリント・イーストウッドが80代という高齢にもかかわらず、前作『ジャージー・ボーイズ』からまだ半年も経たないという恐るべきフットワークの軽さで製作された新作『アメリカン・スナイパー』を観てきた。これはホームページやチラシなどの宣伝媒体でも触れられていることなんで言っていいと思うが、例のエンディングに待っている“沈黙”になぜ観客は席を立つのか。まぁトイレが近い人は別にしてどうして余韻をあの数分間かみしめないのか。いや、余韻と呼ぶにはあまりに苦い。それを突きつけてくるのが恐れ多くもクリ爺である。私は押さえつけられたような感覚だったんだが、まぁ立つわ立つわゾロゾロと。映画の楽しみ方は人それぞれなんで私ごときが差し挟む余地は無いんだけどあれはちょっと残念だ。

 本作はイラク戦争で160人(公称)を殺害したことで伝説とされる元・狙撃手クリス・カイルが著した手記を元に映画化された。主人公はもちろん著者のクリス(演じるはブラッドリー・クーパー)である。1.9km先の敵兵をも射抜くという驚異的な腕前を持つクリスは4度に渡ってイラクへ派兵し米軍の最高部隊ネイビーシールズの一員として戦果を上げる。そんな彼の生い立ちはカウボーイに憧れた少年時代、銃の操作法を伝授する父から愛国精神を叩き込まれ、9.11などのアメリカを襲うテロ報道を目にしアメリカ国民を守る使命感に燃えて入隊する。私生活では恋人との結婚、妻の妊娠、娘の誕生と戦地と本国を行き来する度に変化していく。が、変化するのは戦地から帰るカイルも同様で戦闘に従事することで生まれるトラウマが次第に彼を苦しめていく。

 何でもアメリカでは戦争映画史上歴代1位の興行収入を上げているそうで、戦争大好きなお国柄であるゆえ、数限りない戦争映画が作られてきたわけだがベトナム戦争を境に『史上最大の作戦』や『特攻大作戦』などのアクション満載、娯楽性重視の自己賛美型が主流だったところへ『ディア・ハンター』や『プラトーン』などの陰鬱な雰囲気が充満する自己反省型が登場し、国の都合で始めた戦争に翻弄される若者がクローズアップされることが多くなった。『アメリカン・スナイパー』もその流れを汲む一作と言えるだろう。予告編を見たときからそうだったが、冒頭からいきなり目を背けたくなるイラクの現実を見せつけられ胃がきりきりと痛む思いである。もう気分が晴れないこと請負い。それに本作はクリス自身の「個」と国を背負った「公人(軍人)」とのせめぎ合いの映画とも見て取れる。国を守る一心で戦地ではその類い稀な狙撃能力を用いて、一人でも多くの兵士を助けるカイルであるが、いつしか英雄として本国で迎えられた頃、あなたに助けられたと声をかける傷痍軍人が現れる。一通り感謝の意を示したあと敬礼をするのだが、カイルは返礼せず一言励ましの言葉を残してその場をあとにするのである。いくらプライベートとはいえ「公人」としての礼儀を欠くリアクション。「個」として戦争のトラウマに苦しめられても「公人」として戦争の慣習をしないところにカイルの「国への奉仕」の対し方が垣間見えるシーンである。

 先述の歴代興収の快挙もそうであるが、これは時代に選ばれた映画としか言いようが無い。あんまり喜べず歓迎しかねる側面をはらんでいるが、原作者の“事情”が変わって映画の一部を変更せざるを得なくなり、そして現在、日本も他人事では無くなったタイムリーな中東情勢である。それが結果的に大成功を収めるとは原作の映画化権を買い取った時点では制作者は想像できまい。それでありながらおそらく数十年の時を経たとしても色あせること無く光を放ち続けているかもしれない。

【No.168】アメリカン・スナイパー
評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。




Posted by イリー・K at 23:25│Comments(0)【あ】
 
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