2015年01月29日
【No.167】地球防衛未亡人

’14/日本/84分/カラー
監督・脚本・製作: 河崎実
出演:壇蜜 大野未来 福田佑亮 堀内正美 森次晃嗣
『いかレスラー』『コアラ課長』『かにゴールキーパー』などを発表し、我が道をひた走る河崎実監督を当ブログの評価基準に乗っ取って「クズ映画の雄」と名付けたのは8年ほど前、小誌連載時に取り上げたころのことだった。『日本以外全部沈没』も『ヅラ刑事』も、ここに列記したタイトルだけでよくもまぁと呆れ返るほどに笑う世界観はどこもマネが出来るものではなく(誰もマネしようとは思わないか)、ゆくゆくは『シベリア超特急』を放った故・水野晴郎の継承者となり得る可能性を窺わせるものがあった。最近は巨匠の過去作やけっこうな客の入りのヒット作を劇場で観るなど、“まとも”な作品に触れ続けていたのでここいらで久々にと河崎監督の新作を観てみたのである。CSで流れていた『地球防衛未亡人』。主演は珍奇の目から開放され、このごろはバラエティ出演で安定の感を見せる檀蜜である。
この8年、小誌は休刊となって個人的には仕事面においても劇的に変わり、世の中は政権が民主党へ移ってからまたも自民が奪還するなど激動であったこの年数を経ても河崎監督はやってることが変わっていなかった。変わった点を強いて挙げるなら「歌唱コーナー」がなかったくらいか。
『太陽にほえろ!』が下敷きとなって生まれた『ヅラ刑事』のように、本作の下敷きはタイトルから想像されるように『ウルトラマン』などの特撮モノである。檀蜜演じる地球防衛軍のエースパイロット、ダン隊員は地球に飛来した怪獣ベムラスに復讐の闘志を燃やしていた。それというのも暴れ回るベムラスに巻き添えを食った形で夫を亡くしており、そもそも隊員に志願したのもこのベムラスを倒す一心からで、わずか3年でエースにまでにのぼりつめたのである。遂にベムラスに一矢報いる機会をつかみ出撃に向かったのだが、攻撃する度になぜか猛烈なエクスタシーを感じてしまい、思うように倒すことが出来ない。診察した専門医によれば相手に苦痛を与えると性的興奮を覚える特殊な体質を持っているとのこと。SMでいうところのサディズム体質ということか。先天的なものだとしたらもっと前から気づかなかったのかというツッコミは置いといて、檀蜜の起用理由のひとつが明らかになる。檀蜜とオリジナルの主人公モロボシ・ダンの「ダン」繋がりでのダジャレだけではないのである。
ダジャレと言えば地球防衛軍の略称が「JAP(ジャップ)」だったり、戦闘機の名称がジャップヤロウ、オスプレイに対してメスプレイが登場。尖閣諸島ならぬ三角諸島と今日の世相に絡めた・・・、いや「世相」という言葉を持ち込むのも気が引けるほどのダジャレを臆することなく連発。このいい知れない不快感、「AREA」の広告を見てるようである。これに及ばず本作でもいつもの河崎タッチで世相にも斬り込んでいく。某政治家のモノマネ要員として河崎監督御用達のザ・ニュースペーパーが出て来るのだが最初、安部晋三であるのがわからなかった。明らかに変な発声をしているだけで顔が全然似てないんだもの。石原慎太郎も同じくだが仕草は似ていたな。まぁ、モノマネの出来が中途半端というほかなく、いつものことだが全体を通してほとばしるのはダジャレやモノマネで風刺を利かせようとするセコさと安売り感である。オバマ大統領には今頃になってノッチを起用していた。大統領就任の話題にあやかってチヤホヤされていた頃よりオファーがしやすくなったということか。これも安売り感に一役買っている。
しかし、『電エース』や『ギララの逆襲』を撮っていたように特撮モノにはことのほか愛着があるらしく特撮シーンは現在の最新技術に目が肥えた我々から見ればもちろん劣ってはいるものの、ちゃんとした作りになっている。しかし、そこに予算を注ぎすぎたのか壇蜜の夫との馴れ初めから命を奪われるまでの回想シーンが遠景ショット無しのバストショットもしくは全身だけの撮影になっていた。ほぼセット無し。葬儀のシーンでは黒い暗幕の前で喪服姿の檀蜜が悲しんでいるだけであった。なんちゅうバランスの悪さ。いろいろ難癖をつけてきたけれどこれは一連の河崎作品の楽しみ方のひとつかもしれない。確信犯でやってるようなフシもあるし。
ともあれ、こうして呆れさせた一方で変わらないことに安心している自分がいることも事実。がらっと変わっていたらどうしようかと動揺するところであった。ただ、こうして変わらないのはそれを認めてくれる世界が存在するということで、この世界のためにも河崎監督はこれからも己の道を突き進んでいくのだろうか。いばらの道ではあるけれども。

評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
この8年、小誌は休刊となって個人的には仕事面においても劇的に変わり、世の中は政権が民主党へ移ってからまたも自民が奪還するなど激動であったこの年数を経ても河崎監督はやってることが変わっていなかった。変わった点を強いて挙げるなら「歌唱コーナー」がなかったくらいか。
『太陽にほえろ!』が下敷きとなって生まれた『ヅラ刑事』のように、本作の下敷きはタイトルから想像されるように『ウルトラマン』などの特撮モノである。檀蜜演じる地球防衛軍のエースパイロット、ダン隊員は地球に飛来した怪獣ベムラスに復讐の闘志を燃やしていた。それというのも暴れ回るベムラスに巻き添えを食った形で夫を亡くしており、そもそも隊員に志願したのもこのベムラスを倒す一心からで、わずか3年でエースにまでにのぼりつめたのである。遂にベムラスに一矢報いる機会をつかみ出撃に向かったのだが、攻撃する度になぜか猛烈なエクスタシーを感じてしまい、思うように倒すことが出来ない。診察した専門医によれば相手に苦痛を与えると性的興奮を覚える特殊な体質を持っているとのこと。SMでいうところのサディズム体質ということか。先天的なものだとしたらもっと前から気づかなかったのかというツッコミは置いといて、檀蜜の起用理由のひとつが明らかになる。檀蜜とオリジナルの主人公モロボシ・ダンの「ダン」繋がりでのダジャレだけではないのである。
ダジャレと言えば地球防衛軍の略称が「JAP(ジャップ)」だったり、戦闘機の名称がジャップヤロウ、オスプレイに対してメスプレイが登場。尖閣諸島ならぬ三角諸島と今日の世相に絡めた・・・、いや「世相」という言葉を持ち込むのも気が引けるほどのダジャレを臆することなく連発。このいい知れない不快感、「AREA」の広告を見てるようである。これに及ばず本作でもいつもの河崎タッチで世相にも斬り込んでいく。某政治家のモノマネ要員として河崎監督御用達のザ・ニュースペーパーが出て来るのだが最初、安部晋三であるのがわからなかった。明らかに変な発声をしているだけで顔が全然似てないんだもの。石原慎太郎も同じくだが仕草は似ていたな。まぁ、モノマネの出来が中途半端というほかなく、いつものことだが全体を通してほとばしるのはダジャレやモノマネで風刺を利かせようとするセコさと安売り感である。オバマ大統領には今頃になってノッチを起用していた。大統領就任の話題にあやかってチヤホヤされていた頃よりオファーがしやすくなったということか。これも安売り感に一役買っている。
しかし、『電エース』や『ギララの逆襲』を撮っていたように特撮モノにはことのほか愛着があるらしく特撮シーンは現在の最新技術に目が肥えた我々から見ればもちろん劣ってはいるものの、ちゃんとした作りになっている。しかし、そこに予算を注ぎすぎたのか壇蜜の夫との馴れ初めから命を奪われるまでの回想シーンが遠景ショット無しのバストショットもしくは全身だけの撮影になっていた。ほぼセット無し。葬儀のシーンでは黒い暗幕の前で喪服姿の檀蜜が悲しんでいるだけであった。なんちゅうバランスの悪さ。いろいろ難癖をつけてきたけれどこれは一連の河崎作品の楽しみ方のひとつかもしれない。確信犯でやってるようなフシもあるし。
ともあれ、こうして呆れさせた一方で変わらないことに安心している自分がいることも事実。がらっと変わっていたらどうしようかと動揺するところであった。ただ、こうして変わらないのはそれを認めてくれる世界が存在するということで、この世界のためにも河崎監督はこれからも己の道を突き進んでいくのだろうか。いばらの道ではあるけれども。

評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
Posted by イリー・K at 09:00│Comments(0)
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