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2014年12月15日

【No.163】タイムアバンチュール 絶頂5秒前

【No.163】タイムアバンチュール 絶頂5秒前

’86/日本/カラー/76分
監督:滝田洋二郎
出演:田中こずえ 杉田かおり 若菜忍 木築沙絵子 蛍雪次郎

 H・G・ウェルズの小説で広く知れ渡ったタイムトラベルという概念は物語の娯楽性を格段に上げることができる手段として多く用いられている。そのウェルズの小説『タイムマシン』が発表されたのが1895年。ちょっと無理矢理だが奇しくも映画が誕生したのも1895年である。想像の産物である映画も数限りなくタイムトラベルは使い倒されてきた。

 時間移動装置による故意にしろ、超自然現象による偶然にしろ時間移動の方法は様々だが、時間移動装置のパターンで代表的なのは何と言ってもデロリアン(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』)だろう。乗用車を改造しプルトニウムをエネルギー源として140キロの速度で時間移動できる。最近でも『メン・イン・ブラック3』で懐中時計のような形状で指定の年代を設定し、何十階建てのビルに相当する高所から飛び降りて、落下スピードで時間のすき間を突き抜ける。偶然のパターンでは『戦国自衛隊』が代表的なところか。ほかにも『地下鉄(メトロ)に乗って』や『異人たちとの夏』などもそうだろう。もっと代表的なものはあるはずなのに微妙なものしか浮かんでこないが、ま、枚挙にいとまが無いということだ。しかし、偶然パターンのタイムトラベルは邦画に多いのは気のせいか。時間移動装置を作る予算があまり無いからという邪推は置いておくとしてもナメてはいけないのは邦画のなかでもSF要素が多少は絡むタイムトラベルとは無縁に思えたあの日活ロマンポルノにも存在していたのである。『陰陽師』や『おくりびと』を手がけた滝田洋二郎監督がまだ、ロマンポルノを主戦場にした頃の1986年に製作されたその名も『タイムアバンチュール 絶頂5秒前』!カウントダウンするぐらいなんだからどんな「絶頂」を迎えるんだろうか。いやが上にも期待感が高まるタイトルである。3年ほど前にこの映画の存在を知ったのだが、ビデオ屋というビデオ屋を掛けずり回っても見つからず一度はあきらめたのだが、たまたま見る機会を得ることが出来、喜色満面で今回ご紹介できるに至ったのである。

 OLの悦子は会社の上司でもある婚約者が同僚と情事を重ねているところを偶然目撃してしまう。帰宅し裏切られた淋しさから悶々とする悦子。さて、日活ロマンポルノに限らずともピンク映画やVシネマでもよくある導入部であるが、開始から10分ほどでそのタイムトラベルの瞬間が訪れる。雷鳴轟く夜、寝室でラジオを聞きながら自慰行為にふける悦子。迎えた絶頂のあとの恍惚から我に返ると15年後の2001年にタイムスリップしたのである。生まれてこのかたありとあらゆるタイムトラベルを見て来たが、オーガズムで時空を超えるとはこれ以上のファンタジーがあるだろうか。タイムスリップ後の定番描写もきっちり押さえている。見知らぬ地をさまよい歩いていると風で舞って来た2001年発行の新聞紙が。手にしてみると紙面に踊るのは「清原800号ホームラン」の文字。夜の空には煌びやかな電飾で施された広告飛行船が飛んでいる(モロ合成)が、第二次関東大震災が起こったあとで街は近代的なビルが所々に建っていてささやかな風景になっている、と、どうにかして未来っぽく見せようとする苦心や娯楽作を多く撮っている監督ゆえのサービスが随所に表れていてアカデミー賞を手にするまでの経緯の一端を見るという意味では大変興味深い。しかし私が本当に見たかったのは悦子を演じた田中こずえである。

 オヤジ的な表現をさせていただくならばバブリーな肉体とでも言おうか。高身長で均整のとれたルックス。背は高くなく、豊満でぽっちゃりな堀江しのぶあたりがセクシーアイドルの代表格だった1986年当時としてはえらくスタイルが突出している。しかし出演作は数えるぐらいしか無く、2、3年で芸能界から身を引いたそうだ。ヌードモデルから始まってその並外れたスタイルが注目されるが、のちにこの末路を辿るのは当時のバブル景気とどこか重なって見える。それと同様にバブル前夜の時代に作られた本作もあちこちにチラついて仕方が無い。

 あの街の撮影地は再開発やら何やらでビルが林立することになる西新宿あたりと思われるし、悦子が婚約者から指輪でプロポーズされるシーンでも「給料の3ヶ月分」というフレーズも飛び出す。タイムトラベルの奇想天外なバカさといい、当時の浮かれた感じがほどよくマッチしていてそれなりに楽しく、映画はハッピーエンドで幕を閉じるのだが、主演女優のその後の不遇さとも重なるバブルの儚さを思い、なぜか感傷的になってしまうのであった。

【No.163】タイムアバンチュール 絶頂5秒前
評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。




Posted by イリー・K at 09:04│Comments(0)【た】
 
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