てぃーだブログ › 激烈シネマニアン! › 【わ】 › 【No.157】悪いやつら

2014年10月11日

【No.157】悪いやつら

【No.157】悪いやつら

’12/韓国/カラー /133分
監督・脚本:ユン・ジョンビン
出演:チェ・ミンシク ハ・ジョンウ チョ・ジヌン マ・ドンソク クァク・ドウォン
 
 前回は『怪しい彼女』を紹介したんだが、それでも沖縄ってどうして韓国映画を本土並みにやってないんだろうか。かかる映画といっても私が注目していたものでは無い「何コレ?」といったものばかり。他にかけるべき映画はあるだろうに。今日紹介する『悪いやつら』だってそのひとつだ。なんたって韓国映画界きっての野獣、チェ・ミンシクが出てるんだから。スクリーンで観察しがいがあるというものなのにどうしてやらないのか。そういや同じ出演作でそのあとに作られた『新しき世界』をやるとチラシまで置いときながらやらなかったんだよなぁ桜坂劇場は。やるやる詐欺も甚だしい。だからあれ以来行ってないんだ桜坂には。もうしょうがないからレンタルDVD見ちゃったわ。いつまでもグチをこぼしてたってしょうがないんで話を戻す。

 いやぁ、いつ見てもミンシクは面白いなぁ。坂上二郎と火野正平を掛け合わせたようなフェイスで我々に見せつけるのは「人間というのは如何に無様な生き物か」ということである。人間、最後の最後まで追いつめられたら、残った生物本来の本能に近い本性をむき出しにする。理性もモラルもへったくれもない。そういう“生態”をミンシクというフィルターを通すと見ているこちらが危機感を覚えるほどに強烈に映し出される。残忍非道な殺人鬼を演った前作の『悪魔を見た』ではそれがピークに達したのではないかと思われた。しかし、今回もミンシクは魅せてくれた。殺人鬼とは打って変わって卑屈、狡猾、傲慢の三拍子が揃ったゲス野郎を余すところ無く魅せてくれる。

 タイトルの『悪いやつら』とはまぁいわずもがな韓国の裏社会に生きるヤクザたちのことを主に指しているのであるが、ゲス野郎ミンシクは公務員の経歴を持ったヤクザものではない。不正や賄賂は当たり前の税関の主任を務めるミンシクはある日、密かに持ち込まれた大量の覚せい剤を発見し、これを使ってあるツテを頼りにヤクザにビジネスを持ちかけるのだが、コテンパンにやられて門前払いを食らう。ミンシクが頼りにしているツテとは血縁。私は知らなかったんだが韓国社会はどんなに何等親と離れていようが血縁関係がモノをいうらしく、裏社会の極道ものでさえも通用するものだという。ミンシクを追い払ったヤクザは血縁上敬うべき上の者であると知るやミンシクにひざまずくのである。この時のミンシクのえも言われぬドヤ顔がたまらない。こうして裏社会に参入しヤクザものでもシノギでもない「パンダル」という半端な身としてのし上がって行く一代記が始まるのである。

 本作はシリアス路線ではあるが、ピンチに次ぐピンチ、裏切りに裏切りを重ね、暴力や欲望が渦巻く裏社会のなかをその図々しい処世術で出世街道を突き進むミンシクの生き様はどことなく笑いを誘う。それが顕著に表れたシーンをご紹介したい。

 あるナイトクラブが実は別のヤクザ組織が裏で牛耳っており、不正に売上金を巻き上げることを聞きつけたミンシクは、まずリーク元の知人(シノギ)を連れて馴れ馴れしい口調を使って共同経営を持ちかけるがもちろんフクロにされて門前払い。そのあとは手を組んでいるヤクザ以下子分連中を引き連れて再度“訪問”。要するに殴り込みをかける口実にするために始めはフクロになったわけであるが、「馴れ馴れしいミンシク」→「ボコボコにされヘタレ顔のミンシク」→「仲間ヤクザを引き連れドヤ顔のミンシク」という一連のミンシクの流れはまさしく不良グループにまとわりついているコバンザメと大差ない。いじめられて「お兄ちゃん呼んで来るからおぼえてろ!」と半べそになる子供とも重なって見える。

 とまぁこんな調子で時にはヤクザにボコられ、媚へつらい、保身のためならいくらでも裏切って相手に寝返ったりする。ゲスの権化と言っても差し支えないミンシクだが、こうしたしたたかさの裏には「家族を養うため」であることをチラつかせるのが人間臭いところ。一見の価値ありである。
【No.157】悪いやつら
評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。


Posted by イリー・K at 12:51│Comments(0)【わ】
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。