2013年07月05日
【No.134】死霊のはらわた('13)

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’13/アメリカ/カラー /91分
監督:フェデ・アルバレス
製作:サム・ライミ ブルース・キャンベル ロバート・G・タパート
出演:ジェーン・レヴィ シャイロ・フェルナンデス ジェシカ・ルーカス ルー・テイラー・プッチ
どうなんでしょう『死霊のはらわた』リメイク版。全3作のシリーズが制作された言わずと知れた80年代を代表するホラー映画だ。オリジナル版は大袈裟に言ってしまえば私の人生にとってホラーの原風景と言える映画である。ホラーというもの(ジャンルというか概念)を知らなかった幼い頃、行動範囲が家の周辺のみだったのを近所の映画館(ゴヤオリオン)まで探検しに行った時に貼り出されていたあのポスターは今でも鮮明に憶えている。実は本編を見たのはビデオでの後追いだったんだが、どんなホラーに接しようとも長い間、判断する際の基準として君臨していたものだ。それほどの影響力を持ち、心をときめかせた原風景はこのリメイク版には絶望的に近いほど見られない。そらそうだわな。21世紀だもの。オリジナルの存在を知らない若い世代ならば、それなりに楽しめようが、愛着ガンガン世代の私からはいただけないところはいくつか見られる。今回はリメイク版がホラーとしてはどうかということではなく、果たして『死霊のはらわた』のリメイク足り得ているのかについて考えてみたい。
山奥の小屋を訪れた若者たちが地下で発見した「死者の書」の呪文が吹き込まれたテープを再生して悪霊を呼び覚ましてしまい、1人ずつ取り憑かれて仲間を襲っていく基本プロットは一緒であるが、なぜ単純明快な恐怖を描く単純な話を、少々複雑な話にしてしまっているのか。オリジナル版の若者はただのティーンエイジャーというだけでバカンス目的で山小屋を訪れる。遊びほうけて最初はヘラヘラ笑っていたのが悪霊の存在とただならぬ事態に気付き、しだいに表情をこわばらせていく。テンションが「高」から「低」への落差によるショック効果も相まって、単純な恐怖には何の説明も無い単純な若者に遭わせるのがよく映える。ところが、リメイク版ときたら若者たちに何かと情報を足しているのだ。教師や看護士などの職業を持ち、年齢をちょっと上げている。そして主人公である兄妹の妹がヤク中で薬物依存から立ち直らせるセラピー的な意味を多いに含んだバカンスが目的である。で、ヤク中の原因は兄が母とのいざこざがあって、それに逃げるように薬物に溺れたのだという。う〜ん、重い。そんな空気が冒頭から延々と続くのである。「落差」も何もあったものではない。余計なサイドストーリーを盛り込んだことにより、せっかくの恐怖がぼやけてしまっている。
リメイク版を作るにあたってはオリジナルをそっくりそのまま作ることは必須命題ではないし、ましてや制作当時の風潮というか、ノリまで再現するのはどだい無理な話であるから、「現代的アプローチ」とかいって作ったりする。それにあたる部分なのかはわからないが、オリジナル版では映されなかった悪霊の正体がリメイク版では親玉みたいな形で登場する。顔にへばりつくほどに長い髪の少女という風体はまんまジャパニーズホラーを代表するアレそのものである。オリジナル版の監督であり、今回はプロデューサーとして参加しているサム・ライミがハリウッド版『呪怨』もプロデュースしていた影響なんだろうか。
オリジナル版はスプラッター映画の代名詞的な存在として知られている通り、残酷描写が売りだった。当然リメイク版でもそれに取り組んでいるが、いかんせんこれには目も当てられない。コマ撮りやバレバレの人形など今となっては微笑ましくも見える30年前の限られた映像表現も今では「万能」の域に達している。それをいいことにイヤというほど見せつける。その最たるものが自傷行為だ。DIY器具や調理器具など劇中でわざとらしく映される道具には「何か」に使われることなんてバカでも気付く。そしてまさかあんなところで再登場するとは。目を背けること必至である。もうただただ痛い。いちいち痛点を刺激するようなやり方ははっきり言って芸が無いと思う。誤解を恐れずに言うと、程度はどうであれ誰でも残酷なものを見たがる欲求は持っている。これに応える残酷描写には見るに堪えるやり方があるはず。あんなもんに比べたらオリジナル版の「首チョンパ」や」「オノで人体をメッタ切り」は何度でも見ていられる。愛でたいぐらいだ。「ぐぇ〜」と思われるかもしれないが、切られる瞬間はそのものは映さずに血が飛び散るのを見せ、映ったとしてもほんの一瞬で抑えるところは抑えている。しかしリメイク版は進化した映像技術を駆使し寄りのアップでじっくりと見せるのである。あぁ、「万能」は必ずしもすべての人を幸せにすることはないのだ。

評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
Posted by イリー・K at 08:47│Comments(0)
│【し】