2012年04月30日
【No.115】僕達急行 A列車で行こう

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’11/日本/カラー /117分
脚本・監督:森田芳光
出演:瑛太 松山ケンイチ 貫地谷しほり 村川絵梨 ピエール瀧
多かれ少なかれ人には“尖っている”時期がある。あまり適さない表現だが反抗期に近いものと言い換えてもいい。尾崎豊イズムとでもいおうか、社会に抗ってツッパって生きている。それがいつしか社会へ出るようになり、円滑な社会生活が送れるよう次第に角が取れて丸くなっていく。これが「大人」になるということなのだろう。
昨年の暮れ、森田芳光監督急逝の一報には大いに驚かされたが、公開待機作が『僕達急行 A列車で行こう』と知った時には、どこか軟弱な響きがするタイトルから一抹の不安を覚えた。あまり観たい気がしなかったが、遺作ということでもあるので公開3日目に劇場へ足を運んだのである。鑑賞後の印象は、「ああ、森田監督はすっかり大人になったなぁ」であった。
自主制作からピンク映画を経て一般映画で監督デビューした頃の森田監督はそれはそれは尖っていた。若さ故のパワーで描きたいものをフィルムに焼き付ける。それが攻撃的な鋭さを持って劇中の端々に表れていた。批評家受けなど気にせず、ただやりたいことを貫こうとする無鉄砲さが感じられた。松田優作が由紀さおりにビンタしたり(『家族ゲーム』)、登場人物が流す血が黒かったり(『悲しい色やねん』)といったものが(他にもいっぱいあるんですが10本しか見ていない男の言ってることですんで)、“森田ワールド”として長年親しまれてきたはずである。それが『僕達急行〜』が遺作になるとは。牙を抜かれたのか森田監督。いや、その気配は『間宮兄弟』(‘06)からあったのだが、これが毒にも薬にもならない映画なのである。
大企業で勤める青年サラリーマンと町工場の跡取り息子。ある趣味を通じて知り合った2人がうまくいかない仕事や恋に奮闘するハートウォーミングコメディ。ある趣味というのは「鉄道」。2人はいわゆる鉄道マニア、最近では「鉄っちゃん」とも呼ばれているらしい。業界にしろ、職業にしろ、ある特定の世界の人々を描いた映画というのはたくさんあるが、趣味の世界となると同じ趣味の人以外の人には共感を得られなかったり、惹き付けるポイントが限られてくるから難しいと思う。ではどうすればいいかというと、「この人たちは変わっている」という風に見せるしかないのではないか。差別的な意味ではまったくなく、趣味の世界を外側からの視点で常人から見たら特異なものであるかを描くのである。しかしこの映画、ほとんど内側での視点でしかなかった。いや、青年サラリーマンが恋人とデートで鉄道に乗り、青年が恋人そっちのけで乗車気分に浸っていたせいで振られるといった外側視点寄りの描写もあったりするのだが、鉄道マニア同士がキャッキャ、キャッキャと喜んでいるところばかり見せられて、外側にいる人(私)からして見れば「ふ〜ん」としか言いようが無い。同じ趣味を持った者同士が出てくる映画といえば『釣りバカ日誌』が思い浮かぶ。20作を超える長寿シリーズである同作は最初からハマちゃんとスーさんは同じ趣味を持っているというイメージが強いが、1作目のスーさんは外側の人でハマちゃんの誘いをきっかけに同じ趣味を持つようになったのである。
登場人物の名をすべて鉄道の名前(こだま、あずさ等)にしたり、ある場面で伊東ゆかりに小指を噛ませたり(持ち歌「小指の想い出」の歌詞にひっかけて)と小手先のことやって、かつての鋭さは微塵も無い。これは私の邪推と思ってもらってもいいが、松山ケンイチと瑛太という今時の俳優を配したり、エンディングテーマにJ-POPを使ったり、いろんな会社が絡んでいる制作委員会で作った映画なので事情はよくわからないが、どうも森田監督は譲歩しているのではないかと思えてならない。作風が丸くなって、円滑な監督生活が送れるよう自ら折れる。その辺を指して「大人」になったなぁと感じてしまうのだ。まぁ言うなれば、つまらなくなったということだ。森田監督には大変失礼な見方を承知の上で、追悼の意を表して今日は書いてみました。

評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
Posted by イリー・K at 23:40│Comments(0)
│【ほ】