2011年09月08日
【No.107】その男ヴァン・ダム

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’08/ベルギー、ルクセンブルク、フランス/カラー /95分
監督・脚本:マブルク・エル・メクリ
出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム、フランソワ・ダミアン、ジネディーヌ・スアレム、
カリム・ベルカドラ、ジャン=フランソワ・ウォルフ
もし、神様というものがいるとしたら、私はこう言いたい。「なぜ、ヴァン・ダムをこんなふうにしてしまったのか」と。『その男ヴァンダム』を見ると、その気持ちは一層強くなる。
ジャン=クロード・ヴァン・ダム。90年代に従来のアクション俳優には無い端正な顔立ちと空手仕込みの見事な回し蹴りで活躍したアクションスター。しかし、その地位は21世紀を迎えるとともに転落し、ビデオ映画(要するにVシネ)のみに主演するアクション俳優に。かつての輝きは人々の記憶に埋もれ、一時期浮上した「プリンセステンコーの婚約者説」という話題も手伝ってか、嘲笑の的のような存在になりかけたこともあった。最盛期に日本のテレビCMに出ていた過去など今やほとんどの人は憶えていないだろう。私もその一人で、たまたま動画サイトで見つけたのだが「ブラックブラックガム」のCMだった。最後に日本語で言う「ねむけぇぇ、すっきり!ブラっブラっ(ブラックブラック)」というセリフがむなしく耳に聞こえた。
なぜ、今回は冒頭からヴァン・ダムについてあれこれ語っているかというのは、もちろん私がヴァン・ダムの虜になっているからに他ならない。しかも今年に入ってからの話である。きっかけは、これまた動画サイトでたまたま見つけた「木曜洋画劇場」の予告編集であった。現在も続く「日曜洋画劇場」「金曜ロードショー」を除いて、次々と消えていった夜9時台の映画放送枠。そのひとつである「木曜洋画—」はテレビ東京の番組であるが、放送が終わる間際に流れる次回放送分の予告編が他番組のものと比べると群を抜いて面白い。他番組はあくまで「予告」として作っているのだろうが、「木曜洋画—」は、もはやエンターテイメントと言っていい。放送する映画のセレクトよりも、こっちに本腰を入れていたのかと思えるほど。もっと言えば、本編を見なくても、15〜30秒しかない予告編だけでお腹いっぱいである。番組が終了してだいぶ経つというのに予告編だけが動画サイトでもてはやされているのは頷ける。ネットカフェへ行ってでも見る価値はありである。で、その中にヴァン・ダム主演作がいくつかあり(特に『ノック・オフ』予告編は秀逸)、それに満足するだけでは終わらず、作品をレンタル店から借りて見てみたら大変良かった。
それからというもの、ヴァン・ダム熱に冒された私は、レンタル屋へ行ってはヴァン・ダム映画の棚へ駆け込む日々である。デビュー間もない頃の作品から最盛期、ビデオ映画に至るまでほとんど見た。やがて見るものがなくなり、ヴァン・ダム熱は徐々に沈静化に向かいつつはあるが、ここはケリをつけるべく『その男ヴァン・ダム』を見た。これが聞くも涙、語るも涙な映画で実際に泣きはしなかったが、心が涙で濡れたね私は。
タイトルにヴァン・ダムの名が冠せられているところからもわかるように、主人公は実在のヴァン・ダムを自身で演じている。映画だから当然フィクションが含まれているものの、境遇もビデオ映画のアクション俳優と同じ。撮影現場では50(歳)近い体にムチ打って、無理なアクションを要求され、マネージャーから伝えられる次回作の仕事はどれもビデオ映画ばかり。スクリーン復帰を夢見ながら母国ベルギーへ帰る。もうこの時点で心の涙腺は緩みっぱなしである。まるでカメラには収まらない現実の光景を垣間みるような映像の連続だ。このあとヴァン・ダムは娘の養育費を振り込むため郵便局に立ち寄ると、そこを占拠していた強盗団に遭遇。その先に数々の受難が待ち受ける。
アクションスターもといアクション俳優は、体を酷使したりして身を削るものだが、こんな形で「身を削る」のは初めて見た。公開当時から言われていた通り、自分自身をネタにしている。それはもちろん映画の前半部分にも随所にあるが、遭遇後の受難にもそれが表れている。「やっぱいい体してんなぁ」と体を触られまくったり、「おい、あの技見せてくれよ」と回し蹴りをおねだりされたりと強盗団からおもちゃにされているところなんかは笑ったが、やっぱり心の中では泣いていた。笑いの数だけ涙があふれている。
そしてこの映画で注目したいのは製作国がアメリカではなくヨーロッパ圏であるというところ。映画がこれだけ哀しみを誘うのはヨーロッパだからこそだ。これがもしアメリカ製作ならば、「ヴァン・ダム捨て身の自虐」といったスタンスで下世話趣味全開のコメディ路線に突っ走ってたに違いない。
先日正式発表されたスタローンの『エクスペンダブルズ』続編に出演という一筋の希望があるが、この先ヴァン・ダムはどうなってしまうのか。ああ、これ以上書くと本当に泣いてしまいそうなので、ここで筆を止めておこう。

ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
Posted by イリー・K at 02:30│Comments(0)
│【そ】