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2010年08月03日

【No.100】渇き

【No.100】渇き
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’09/韓国/カラー /133分
制作・監督・脚本:パク・チャヌク
出演:ソン・ガンホ、キム・オクビン、シン・ハギュン、キム・ヘスク、オ・ダルス



 さて、単館系でひっそりと公開され、何もこれといった評判を耳にしないままひっそりと終わってしまったこの『渇き』という韓国映画。まるで、薄明かりの排水溝に不意に現れて目を離す間に消えていた野ネズミのようなこの映画を「バンパイア」を扱ったキワもの映画として記憶に留めている人は日本にどれぐらいいるんだろう。時が経つにつれて、その数は減っていくだろうし、かく言う私も来年の今頃にはすっかり忘れているかもしれない。備忘録ではないが、早いとこ忘れないうちにここに書き留めておこうと今日は筆を執った次第である。

 敬虔なカトリック神父のサンヒョンはボランティアとして新薬開発の実験台になるためアフリカへ赴く。そこで危篤状態に陥ってしまい、応急処置で謎の血液を輸血され奇跡的な回復を遂げる。彼は帰国し元の神父生活に戻るが、やがて日光を避けるようになり、急激に腕力と跳躍力がアップ。そして日頃食べている物を受け付けなくなり血を欲するように・・・。

 こうしてバンパイアと化していくサンヒョンを演じるのはソン・ガンホ。日本で公開される韓国映画には大抵顔を出しているオッサンである。何作も通して見続けてきて気付いたが、この人の魅力のひとつは「食べる演技」にある。もちろん次から次へと慌ただしく口へ物を運んでいく「がっつき系」。そういうのに適した顔つきなのかもしれないが、とにかくうまそうに食べる。カップラーメンでさえも極上の食べ物のように見えた(『グエムル』より)。あれは演技というよりもあそこだけ「食」による快楽本能に根ざしたものではないか、そんな思いが巡るというものだが、いくらなんでも血まで飲んでくれと言ったおぼえはない。さすがに「がっつき系」ではなく、神父であるが故、人道上人は殺せないから輸血パックからチューブでチューチュー吸ってたけど。それに女優と本格的な“絡み”をするような二枚目役には不向きだ。あんなゴツゴツした四角い顔では口づけ交わすだけでも大変だろうに。たとえどんなに減量してこの役に臨んだとしても(役作りで本当に10kg痩せたらしい)、顔は四角のまんま。“演技力”や“膨張率”をどうコントロールしようが「型」の前ではまったく無意味になる場合がある。

 それにしても最近の韓国映画はこういった欧米のものを無謀にも取り入れようとする傾向が見られる。「ウエスタン」を扱った『グッド・バッド・ウィアード』は、時代設定こそは違うものの、何とか成立させてはいたが、今回ばかりはそうはいかなかったな。やはり欧米人と同じタキシードを東洋人が着たところで、比べるまでもなく似合うわけが無いのと一緒で(どんな状況だ)、いろいろと無理が生じてしまう。本作に限って言えば、バンパイア云々の前に主役が神父という時点で多くを仏教徒で占める日本人から見たら違和感ありありだ。いや、それが韓国ではそれが普通であるとさっき知ってしまったとしても(ちょっとネットで調べた)、初見時の概念は拭いきれない。儒教派が多数だと勝手に思い込んでいたから。まぁ、それらのことはシャッポを脱いで呑んだとしてもバンパイアというものは何百年とわたって伝承されてきた西洋の文化そのものなんだから下手に東洋人がイジっちゃあいけないと思う。

 同じく東洋人である我々日本人も下手にイジくり倒してきた歴史がある。私が生まれる遥か前に新東宝という今はなき映画会社を筆頭にこういう類いのものが量産されていたし、私がリアルタイムで思い出したのは『咬みつきたい』という91年に製作された映画。吸血鬼を演じたのはなんと緒形拳。ありえないでしょうそんなキャスティング。今思えばあの時観なくて本当に良かったと思うし、あれを「在りし日の緒形拳」のひとつとして認めたくない私はDVDを借りることは決して無いだろう。



【No.100】渇き
ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。




Posted by イリー・K at 22:12│Comments(2)【か】
この記事へのコメント
キリスト教は、世界宗教ですから、その土地に住む民族の土着信仰に合わせて教義を変えてきます。
韓国では、土着のシャーマニズムである(巫堂(ムーダン)沖縄のユタ信仰がより大げさになったもの神懸りが特徴)と同化し、コリアンキリスト教になっているようです。
悪魔祓いと称して、神父と信者がトランス状態に陥る過激なものも少なくないとか、、、
日本でも、コリアンキリスト教絡みの事件がありましたしね。
Posted by 石原昌光 at 2010年08月12日 19:32
石原昌光様

ひつも幅広い調査網による知識、勉強になります。
宗教って「神を崇める」こと以外は相容れないようなイメージなんですけど、土地に合わせて馴染むものなんですね。教義によりけりでしょうけども。
Posted by ボン桜板ボン桜板 at 2010年08月14日 22:12
 
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