2006年11月23日
【No.029】恋するトマト

●10月7日鑑賞
’05/日本/カラー/126分
監督:南部英夫
出演:大地康雄、アリス・ディクソン、 富田靖子 、ルビー・モレノ
数ヶ月間私を苦しめてきたあのうざったい暑さが終わりをつげ、ようやく沖縄にも秋到来。そんな10月、私の心に一陣の涼しい風を送り込むような1本の映画に出会った。それは『恋するトマト』。
思わず頬をほんのり赤らめてしまうようなタイトルで主演は大地康雄ときた。大地康雄である。あの『マルサの女』で国税局のジャック・ニコルソンと呼ばれていた大地康雄、あの『ミンボーの女』でヤクザに脅される過度のストレスで血尿が出ていた大地康雄、あの『ぼくらの七日間戦争』で中学生のガキから大量のタニシを顔面にかけられ絶叫していた大地康雄である。
この組み合わせで何ともいえないアンバランスさが漂う映画に私は興味をそそられ、劇場へ足を運んだ。
なんでもこの映画、構想から13年の歳月をかけ、大地康雄自らが企画、脚本、制作総指揮、そして主演を兼ねて作り上げたまさに全身全霊をかけた作品であるという。パンフレットを見ると、本作は現在日本が抱える農業問題にスポットを当て、制作にあたって大地は、資金集めから実際の農村への入念な取材、ヒロインとなるフィリピン人女性の役者選考、そして役作りにおいても2年間に渡って稲刈りなどの農作業と社交ダンスの特訓…
ヒェ〜
これは並々ならぬ気合いの入れようである。
しかし、これだけの兼任をこなして主演を張ったら、何か妙なところに力が入っちゃって悪い方向に転がなきゃいいがと作品の出来を心配したものだが観てみると、これが結構いいのである。
『恋するトマト』は先程も述べた通り、農業問題に鋭く切り込むと同時に、ある農家の長男が様々な紆余曲折を経て、フィリピンの農家の娘との恋に至るロマンスを絡めて描いている。
この農家の長男を大地が演じているのだが、これが作品に悪影響を与えることもなく、役にハマっていて見事である。農家の長男として後を継げるのかという不安、何度お見合いしても嫁ができない事への苛立ち、そうした現状にさいなまれる絶望感、こういった実際の農村が抱えているであろう現実が、あの泥臭いルックスと相まって、ひしひしと伝わってくる。「なんで俺をこの家の長男に生んだんだ〜っ!!」と父親に八つ当たりするシーンには彼の本作に対する気迫が感じられた。
それにこの作品は大地が長年かけて地道に作り上げたが、パッと観た印象だとこう言っちゃ悪いが、どこか「安さ」というか「手作り感」があふれる映画になっている。それゆえに(かどうかは知らんが)全体に「ベタさ」が終始一貫している。それはかつての大映ドラマ(「スクールウォーズ」、「スチュワーデス物語」etc)を思い起こさせるほどのベタさ加減だ。劇的な場面になるとここぞとばかりにBGMが流れたり、少々オーバーな役者の演技もあったりとそこここにベタさがちりばめられている。ふつう、こういう表現には辟易してしまうものだが、観ていくうちになぜか不思議とそれが許せてしまう。それは事前にパンフレットで制作背景を知った上で観たせいかもしれない。
まあ、何はともあれ企画の発案からここまで1本の映画にまとめあげた大地康雄の執念には頭が下がる思いだ。私としてはやっぱりこういう渋めの俳優を応援したいな。今人気だからといって、旬とされる役者をやたらキャスティングするのはいかがなものか。妻夫木?オダギリ?そんなの私にとっては「もうイイっすよ。」って感じだ。

ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
Posted by イリー・K at 12:00│Comments(0)
│【こ】
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