2007年04月21日
【No.049】ウール100%

●3月3日鑑賞
‘05/日本/99分/カラー/ヴィスタ
監督:富永まい 撮影監督:瀬野敏
出演:岸田今日子、吉行和子、北浦愛、宮田亮、ティアラ、兼田カロリナ
岸田今日子の訃報を知ったのはもう4ヶ月前のこと。
この時はさほど驚きはしなかったし、正直「この世を去った」という実感が湧かなかった。別に知り合いでも何でもないからだとか、私の生活範囲に直接関わらないテレビ(あるいは映画)の向こうにいる芸能人だからというわけではない。
この人には何か「この世の人」とは思えないかげろうのような存在感が醸し出される女優だったからである。「歩く屍」的なニュアンスとは違うが、奇怪といえば奇怪だし妖艶といえば妖艶。我々と同じ空気を吸ってるとは思えない雰囲気。とまぁ、うまく当てはまる言葉が見つからないが、あの独特の風貌から複雑なイメージを喚起させられるものだった。
「キシダキョウコですぅ〜。」という死ぬ間際のような震える声で喋るものまねが認知されたのはそのせいだろう。
私が生まれて物心ついた頃には、すでにああなっていた岸田今日子。チョイと調べてみると、半世紀にわたるキャリアの中で実生活で陰惨な目に遭ったとかその後の芸風に影響するようなところは見られないし、児童向けの著書を出版したり、朗読劇のプロデュース、あとはムーミンの声などイメージとはほど遠い活動を行っている。ではいつからあんな風になってしまったのか。それはやはり「演じた役柄の影響」というのが大きいだろう。『犬神家の一族』や『この子の七つのお祝いに』などの役が効いていると思われる。演じた役が強烈であればあるほど、その後の役者人生を左右してしまうというのは真実だ。
影響力の差はあるが私は彼女を「和製リンダ・ブレア(『エクソシスト』のリーガン)」と呼びたい。
そんな宿命を背負ったまま帰らぬ人となった彼女の遺作『ウール100%』はファンタジー系の作品である。
以前私は「ホラーと同様、非現実的という意味ではファンタジーも苦手」というようなことを書いた。当然本作で描かれているのも非現実的な話である。
毎日近所を歩いては拾い物をし、家に持ち帰る老姉妹。拾ったガラクタは増えに増え、近隣住民は姉妹の家を「ゴミ屋敷」と嫌っていた。ある日そこへ自ら身につけているセーターを編んではほどくモノノケ少女「アミナオシ」が現れて屋敷内を暴れ回り、姉妹を困らせる。以上が映画のあらすじ。
随所に「非現実的」なトコロが散りばめられた本作だが、今回は私にいつもなら生じるであろう抵抗感がほとんどなかった。全編を通してすんなり観られたのは「これは現実かも」と一瞬ではあるが突き動かされてしまった部分があったからだ。
それは「ゴミ屋敷の住人が岸田今日子」という点。いや、実際にそうだと決めつけているわけではないが、これにはあながちウソではないと信用してしまうところだった。妹役の吉行和子と銀髪のオカッパカツラなんか被って扮装しているが、吉行は別としてそんな小細工しなくても違和感ないから素のままでも充分説得力があると思う。
そしてもうひとつは何より岸田のあの存在感がこの作品に大きく寄与している。湯水の如く沸き上ったであろう監督のイマジネーションに岸田は必要不可欠であったろうが、私には岸田の前に作品の世界観がかすんで見えた。
容姿や演技力などは必要だろうが、存在感ひとつで作品を成立させる女優はそういない。表現者としてはひとつの到達点ともいえる姿を私たちに見せてくれた岸田今日子は稀有な存在だったのかもしれない。合掌。

ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
Posted by イリー・K at 12:00│Comments(0)
│【う】