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2007年05月12日

【No.050】無花果の顔

【No.050】無花果の顔

●3月10日鑑賞
‘06/日本/94分/カラー/35ミリ/ドルビーSR/SRD  
監督:桃井かおり
出演:山田花子、石倉三郎、桃井かおり、高橋克実、岩松了




 期待したんだがなぁ、この『無花果(いちじく)の顔』
 女優の桃井かおり初監督作ということでほんのちょっと話題になってたっけ。
 世の女性方から生き方の憧れになっているらしく、歳を重ねるごとに磨きがかかる「アタシはアタシ」的な風格。そして相変わらずまったりと舌に絡み付くような粘着的なしゃべり。あれほどの個性を持った人だから、必ずや秘めたものを持っているかもしれないということで本作を観たのである。

 それから1ヶ月、今私はこの原稿を書いている。これから皆さんにあらすじなどに触れて本作を紹介しようとしたのだが、これが思い出せない。ストーリーの記憶が皆無。無理矢理記憶をたぐり寄せた上で言うならば、一見何の変哲もない家族の長女の一代記といったところか。あまりにも説明が大ざっぱであるがせいぜいそれくらい。

 あとは頭にあるのは断片的に残る独特なシーンの数々。
 夕食時、父(石倉三郎)に労をねぎらってビールを注ぐ桃井。父の突然の死にあたふたしながら真っ先に近所の寿司屋に電話し、葬儀用の出前を取るも、そのまま長話する桃井。一番風呂に浸かりながら外の夕日に黄昏れる桃井。いろんな桃井が頭の中を駆け巡る。様々な表情を見せる彼女の底に一貫して流れているのは「けだるさ」。それが演技だけに留まらず、監督を務めたばっかりに映画全体にまで及んでいる。

 そう、これは紛れもなくかおりワールド一色に染まった桃井映画になっていた。ほんと混じりっけなし。自作自演でやってるんだから当たり前なのだが。
 本人いわく「依頼があったんで引き受けた」というこの作品。それほど制約がなく、スタッフ選びからキャスティングまで映画の出来を左右する重要な実権は握る事ができたそうだ。製作協力に「SK-?」も入ってるし。

 確かに劇中では桃井がのびのびと演技しているのがみてとれる。石倉とのやりとりも、素の状態で雑談しているのかと思えるくらい自然だし、何より自分が監督だからいつもの他の監督なりディレクターからの注文や規制を押し付けられることもないので何の気兼ねもなく思う存分演じられた事だろう。

 時折、凝ったカメラアングルで撮影したり、セットにしても一家が住んでる家なんか多彩な色使いで旧型テレビ(ガチャガチャ式のやつ)や黒電話など置いたりして本人が言う通り「遊びました」感が随所に見られた。

 女優クラスとしてはベテランに入り、それなりに知名度としても抜群の人だから初監督作にして「遊ぶ」ことを許されたのだろうが、「遊ぶ」というのは時には考えもので、あんまり野放しにすると、抑制がきかなくなって肝心の内容がぼやけてしまう危険性がある。本作がまさにその典型で、内情を推測するに小手先の芸(凝った画作りや山田花子などの奇をてらったキャスティングなど)に神経を集中しすぎるのを誰も忠告できなくて、そのまま突っ走ってしまったのだろう。スタッフは逆らえなかったんだろうなぁ。なんたって相手はベテラン桃井だもの。結論としては「遊びすぎちゃったねぇ」というのが正直な感想だ。

 しかしながら出来はイマイチだったが、こういう個性的な作品を観るのはたまにはいいかもしれない。高額なバジェットにものを言わすチンギス映画や特殊メイクてんこ盛りでガキの目を引かせるゲゲゲ映画なんぞ観るよりは遥かにマシだと思う。


【No.050】無花果の顔
ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。



Posted by イリー・K at 12:00│Comments(0)【い】
 
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