2007年06月23日
【No.053】監督・ばんざい!

●6月2日鑑賞
’07/日本/カラー/104分
監督・脚本・編集:北野武 音楽:池辺晋一郎
出演:ビートたけし、江守徹、岸本加世子、鈴木杏、吉行和子
北野武。
もはや説明する必要はあるまい。
これまでこの頁で登場した監督は、付加説明する必要があるため、何かと煩わしいものだったが、今日は何せ「世界のキタノ」の登場だ。これなら遠回りせずにサクッと本題にいけるものですよ。
今回13作目となる『監督・ばんざい!』。公開初日、奇しくも対抗馬(とされている)松本人志の処女作『大日本人』と重なり、にわかに話題になったが私は両方観た。「笑いの概念をことごとく覆してきた」という意味で名を刻んだこの2人の作品は何かと比較されがちだが全くの別モノになっていた。「笑い」に対する方向性自体違うのだから当たり前なのだが、後者の『大日本人』に関してはおいおい取り上げるとして、先に観た『監督・ばんざい!』。世界的に評価され、1ジャンルとして確立されたといっても過言ではない北野映画。しかし本作をもってとうとうそのブランド力に翳りが見え始めたんじゃないかと私には思えた。前作『TAKESHIS’』でもそうだが、自分自身を語る他に描くものが見つけられなくなったのかという「ネタ切れ感」がどうも否めない。
オハコのギャング映画は撮らないと宣言した映画監督が次回作としてさまざまな映画を撮り始めては何かとアクシデントに見舞われ頓挫してしまう。この導入部を観て、かつてビートたけしが映画批評集として出版した名著「仁義なき映画論」を思い出した。
この中でイタリアの名監督フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』を取り上げている。映画監督が新作に悩むという話の入口は前述の導入部と似ており、更にエンディングで観客が予想できない壊れ方をする点も似ている。これはパクリとはいわないまでも、本作の着想はここから得ていると思われる。
あとこの映画は『みんな〜やってるか!』以来、真正面から「笑い」に取り組んでいるが、明らかに「失速」してしまっている。前半のいろんな映画を撮っている段階では、北野監督の毒気と切り口で「こんな事やるよな」といった嘲笑的パロディを交えて描かれており、時折場内に笑いも起ったが問題は後半。あれよあれよと失速していく元凶はやってるギャグがいちいちベタなのである。北野監督いわく「流行りのギャグをやっても廃れて何年後かに観たら恥ずかしいので昔ながらのベタベタなギャグを盛り込んだ」とのことだが、これはこれで観てるこっちが恥ずかしくなる。そんな状況に追い込ませる最大のベタは1人が何かボケたら、まわりの人が一斉にコケるいわゆる「ズッコケ」(こう書いた自分がまた恥ずかしい)。とにかくコケまくるんだ、吉本新喜劇ばりに。小ネタ程度で一カ所くらい使うんならいいが、平成19年の日本映画で堂々とこれを見せられたら正直ツライっすわ。
まぁ、こんな私でも笑ったところはいくつかあった。
ひとつは江守徹演じる政界の黒幕が演説中、下半身白ブリーフになって腰を振りながら面妖な動きを見せたのと、蝶野正洋と天山広吉の乱闘シーンで蝶野のトレードマークであるサングラスがふとした勢いで外れつつ、そのまま相手をやっつけるが、相方天山の画に切り替わり、また蝶野に戻ったら、きっちりサングラスをかけていたところだった。
北野監督はもうすでに次回作に取りかかっているらしく、『TAKESHIS’』、そして本作と合わせて三部作とするらしいが、果たしていかほどの出来になるのだろうか。とくと見守ることとしよう。

ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
Posted by イリー・K at 12:00│Comments(0)
│【か】