てぃーだブログ › 激烈シネマニアン! › 【ま】 › 【No.066】街のあかり

2007年11月03日

【No.066】街のあかり

【No.066】街のあかり

● 9月16日鑑賞
’06/フィンランド/カラー/78分
監督:アキ・カウリスマキ
出演:ヤンネ・フーティアイネン、マリア・ヤルヴェンヘルミ、 イルッカ・コイヴラ



 アキ・カウリスマキという監督をご存知か。
 いきなり問いかけから始めてみたが、今さらこんな質問をするのは愚かであるくらい名前が浸透しているだろう。

 「ああ、『浮き雲』撮った人でしょ。」という答えが頭の中をよぎった方々の半分は、にわか映画ファンとみて間違いない。断言してしまったが、なんかそんな気がする。いまの答えに「同名の映画を成瀬巳喜男も撮ってるけどね。ただ、表記上“き”は付かないけど。」が追加されれば本物の映画ファンだ。

 ミニシアター系の映画をかじっている人間にとってカウリスマキは最初に覚えられる名前の上位に挙がるといっていい。合コンなどの酒の席上、話のとっかかりを見つける為、大抵趣味の話から入ったりする。そんな時、これといったものがない場合は映画鑑賞と答えるだろう。そのあと「監督で言ったら○○の映画が好きか?」という話題になったら、○○に誰を入れるかで相手からの見られ方が違ってくる。「スピルバーグ」じゃ映画ファンじゃなくても誰だって知っているし、「黒澤明」だと狙いすぎ。そこで「カウリスマキ」を持ってくると、いかにも知ってるという感じで“通”な印象をもたらしてくれる。たとえその名を相手が知らなくても、「おお〜」と感心させられるだろう。「水戸黄門」における印籠のごとく、カウリスマキを出せば、相手がひれ伏すこと請負いだ。
 なんか私の実体験に則したような言い方になっているが、かく言う私の合コン経験は1回。何の当てにもならないんでした。

 北欧、フィンランド映画の名匠として知られるカウリスマキ監督。その作風は独特で、「淡々」「無表情」「犬」の3つで語ることができる(全作を通してではなく、あくまで私自身が観た4本から得た印象ですが)。

 どの作品でも主人公は波瀾万丈で、悲惨この上ない境遇にさらされている。普通ならひたすら陰惨な方向へ向かうようなところをカウリスマキは前出の3つで回避している。

 まずはよく言われている「淡々」。これは知ってる方ならおなじみの演出法で、もはやカウリスマキの専売特許といってもいい程の特徴であるが、どんなに日常的なシーンだろうが、劇的なシーンであろうが、全く同じトーンで描かれている。あと、観客にその場の状況を容易に想像できる限り、容赦なく省略していく。暴力シーンなんかが特に顕著で、チンピラどもからリンチに遭う場合、わざわざトイレや路地裏の奥などカメラに写らない場所へ連れて行かれ、次のシーンには顔中青タンだらけの主人公が映るといった具合。で、その主人公、そのような状況に遭っていようが、何していようが常に「無表情」。周りの登場人物とて同じ。まるで人形を見ているかのようである。そうして悲惨さを和らげながらストーリーが展開する中で必ず出てくるのが「犬」。スクリーンの中で往来する登場人物たちの中でぽつんと淋しげな表情で佇む犬は、映画に牧歌的な雰囲気を漂わせてくれる。

 以上この3つの回避法があるおかげで、救いようがなく物悲しい話が、あたかも寓話的な絵本を読んでいるかのような感覚に捕われるのである。

 今日はカウリスマキ講座に終始してしまい、紙数が尽きてしまったが、新作『街のあかり』も以上の点を踏まえて鑑賞すれば、結構楽しめると思う。これも悲惨な話だけど、省略に省略を重ねて78分というコンパクトな上映時間だから観やすい映画になってるよ。


【No.066】街のあかり
ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。



Posted by イリー・K at 12:00│Comments(3)【ま】
この記事へのコメント

  成瀬巳喜男知ってるんだ(驚)
  結構、物静かなオジサンでしたよね?
  声が聞こえないんですよ。
  高峰秀子と加山雄三に聞いたのですが、
  ボソッと一言行って、暗い感じの人だそうです。
  意外にも仲代達矢も出演していたのですが、
  やりづらそうでした。
  作品はともかく、私には苦手のタイプの人間です。
  気を使いますよ全く!!
  立て!!成瀬巳喜男!!!!!
Posted by ポンジュース at 2007年11月05日 19:25

かと言って「北野武」や「松本人志」は安易な発言になりますしね。
私は何と言っても「矢口史靖」監督ですね。
「裸足のピクニック」は最高の作品です。
Posted by Picnic at 2007年11月05日 21:53

ポンジュース様

「高峰秀子と加山雄三に聞いたのですが」って、
スゴい人たち知ってんなぁ。
名前を挙げただけで、知ってるのはほんと名前だけで1本も観たことないし、
ましてや人となりなんてまったく存じ上げません。

Picnic様

「矢口史靖」といっても傑作は後にも先にも『裸足のピクニック』だけでしょ。
それもいいが、私は『ひみつの花園』の方が好き。
Posted by Dreach at 2007年11月06日 09:46
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。