【No.119】哀しい気分でジョーク
’85/日本/カラー /108分
監督:瀬川昌治
出演:ビートたけし 川辺太一朗 中井貴恵 柳沢慎吾 石倉三郎 大谷直子
皆さんもご承知の通り、今や日本、いや世界の映画界で「映画監督・北野武」として鎮座しているビートたけし。映画におけるたけしが映画監督を始めるまでに至るその軌跡を見ておいても良いのではないか。新作『アウトレイジ・ビヨンド』が控えていることだし、と復習がてら借りた『アウトレイジ』とともに手に取ってみたのが、今回紹介する『哀しい気分でジョーク』。
かねがね耳にしていた「泣ける!」という評判に釣られてではないが、DVDが出たばかりだったから、せっかくなんで軽い気持ちで借りてみたのだ。当時の出演作でDVDになっているものが少ないし。
映画人としての評価などもちろん無く、当時人気絶頂だった芸人としての余勢を駆って主演した映画のうちの1本である本作。飽くまで演者に徹するのみだったたけしを、映画そのものを作る立場にある今から見るとかえって新鮮に見える。しかも扱っている内容が今では食傷気味となっている「難病もの」である。
あまりにも使い古されたもんだから、半分“嘲笑”も込めて呼ばれるようになった「難病もの」。この現実を榮倉奈々はどう思っているのか知らないが、とにかく映画の中でのたけしは難病に冒された息子をどうにかしたい一心で不器用ながらも奔走する父親役(しかも実際と同じ芸人出身のテレビタレントという設定)を実直なまでに演じている。しかし、私にはどうもいまいち乗れない映画であった。私も「難病もの」に対しては「半分“嘲笑”を込めてと呼ぶ」方なんで、感動するというほどでもなかったというのもあるが、主要人物が私にはよくわからない人ばかりなのである。
家庭は顧みず、仕事と夜遊びに明け暮れる父親は、そういう人なんだと無理矢理にでも納得はできるが、息子はそんな父親に反抗や反発をすることなく勉強や家事までこなす一見「お利口さん」風だが、夜な夜な1人で街の中を徘徊したりする。よくゲームセンターで遊び耽るのではなく、ウォークマンで音楽を聞きながら佇んだり、喫茶店とかに入り浸ったりとちょっと変わっている。そして母親は息子を置いて出て行き、遠いオーストラリアの地で別の家庭を築いているのである。息子の最終的な決断でそうなったのか細かい事情はよくわからないが、あんな父親のもとで息子置いていくかね。ちょっと理解に苦しむ。
そんな人たちで話は進行するが、中盤あたりで映画は妙な方向への迷走を見せ始める。父子は遠く離れて暮らす母に会いに行こうと観光がてらオーストラリアへ旅行に出掛けるのだが、過剰に現地の映像どころか字幕付きでオーストラリアの情報を盛り込むのである。あげくの果てにコアラの生態まで説明する始末。観光映画なのかこれは。オーストラリア観光局でも絡んでいるのか。巻末のスタッフロールで探してしまった。
で、結局「難病もの」のオーソドックスなパターンで映画は収束するのだが、映画を通して私が最も印象的だったのは、驚くべき古さだった。いや、四半世紀も昔の映画を古いなんていうのはいくらでも言えるが、製作当時(まだ昭和だった1985年)から見ても古いのではないか。同時期に作られた他の映画と見比べると如実に表れると思う。それはBGMとその使い方に明瞭に表れているが、シーン毎にその場に適した音楽と「まさにココ!」というタイミングで使われる。ベタというより昔(昭和30〜40年代あたり)からある基本的な映画の作り方に沿って忠実に作られたかのようだ。これまた輪をかけるように古さを帯びた音色の音楽を担当しているのがいずみたくっていうのは懐かしい名前だ。懐かしいんだけど何を作った人かすぐに思い出せない作曲家の筆頭であるいずみたく。ちょっと調べてみたら、今もテレビで流れている「徹子の部屋」のテーマソングを作った人だった。そりゃ古いと感じるのも無理は無い。
評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
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