【No.044】WINDS OF GOD -KAMIKAZE
●1月13日鑑賞
’06/日本/カラー
監督:今井雅之
出演:今井雅之、渡辺裕之、千葉真一、ほか
「私が創った作品は苦労して生んだ息子のようなもの」。創作者としての経歴を振り返るとき、そのようなたとえを脚本家や小説家は口にしたりする(あくまで私の主観的な印象ということで)。
脚本なり小説なり創り上げた作品に対して、完成までの苦労や出来云々はさておいて、自分が創ったからには息子と比喩しても無理はない。ましてやそれが世に出て世間一般の評価が高ければ高いほど、なお一層愛着が湧くというものだろう。
今井雅之という人は息子一人(1本)のみで演劇界を這い上がり、世間に認知された俳優である。その息子とは舞台劇「ウインズ・オブ・ゴッド」。1988年の初演以来評判をよんで今では海外公演も行っている息の長い舞台である。内外の評価が高くなるにつれ、今井の愛着は度合いを増し、今度は映画となって実を結んだ。
映画版製作にあたって監督、主演を兼ねる今井は海外公開を視野に入れて活発にアメリカへ出向き、交渉に交渉を重ねて日米ロケを敢行し、まさに入魂の一作として撮り上げた。
そんな予備知識を頭に叩き込んで映画を観たら、なるほどチラシの宣伝文句のとおり力が入った出来になっている。戦時中の神風特攻隊にまつわる話ということで本物のゼロ戦を飛ばしたり、基地に米軍が奇襲するシーンでも次々と爆破されるとこなんか本格的に作ってあって結構迫力があった。
戦時下で散っていった若者たちの悲劇をとおして、戦争の不毛さ、平和の尊さ、夢を持って生きていくことの素晴らしさといった今井監督が言わんとしているメッセージは充分伝わった。
しかしここでひと通り観終わったあと引っかかってしまう疑問がひとつ。観た人誰もが抱くであろうからいちいち言わなくてもいいことだが、自分の中でどうしても拭いきれなかったのでやっぱり言っておく。
「何でセリフが英語なんだ?」
これは「前代未聞の挑戦!!」(チラシ裏より抜粋)と謳うこの映画のウリのひとつとなっているが、いくら海外でも見せるからといってなんでそこまで迎合しなきゃならんのか。いや、舞台で全編英語というのはわかる。その方が観客にとって親切だから。しかし映画となると話は別。字幕で処理すればセリフは伝わるんだから母国語でやらなきゃかえって観客に不親切ではあるまいか。言葉はひとつの立派な文化なんだからそれを放棄してしまったら国際的な舞台に立つ意味がなくなってしまうだろう。
あとこの映画が掲げる「平和尊重」を強調しすぎるがゆえに無理矢理なところがけっこう目立つ。映画は冒頭なぜかニューヨークのグランドゼロから始まる。9・11テロで亡くした彼女の写真を見つめるアメリカ人コメディアン。そしてコンビを組む相方とバイクに乗り交通事故に遭ってしまう。すると次の瞬間、太平洋戦争末期の日本にタイムスリップし2人とも前世の特攻隊員として目を覚ます。こりゃ無理があるだろう。ここで百歩譲って輪廻転生やらで人種や時空の流れに関係なく別の人間に魂が転移したとしても、なんで日本人なのに英語なんだよ。結局はこの疑問に着地してしまう。仲間同士で酒を酌み交わす場面で気分が高揚し、唄を歌おうと皆盛り上がるのだが、それまで英語だったのが唄に入ると「♪貴様と俺とは〜」だもの。もうやんなっちゃう。やっぱりこれだけは納得いかんな私としては。
そんなわけでこの映画、私の疑問は置いといて、とにかく気合いが入っていることだけは間違いない。そりゃ18年間支持されてきた作品だから当然といえる。私の感想は以上。あとは今井監督がこのコラムを読まないことを祈るだけだ。
ボン評価は…
☆ おもしろい ○まあまあ △つまらない ×クズ
の4段階評価です。
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